農業改革をコップの中の嵐にするな 2011/2/24付 日経
2011年2月24日木曜日
国内農業の競争力を高める改革は日本にとって、待ったなしの課題である。
菅政権と民主党は大揺れだが、国民経済の屋台骨である農業の改革は、政争と切り離してしっかり進めなければならない。
菅政権と民主党は大揺れだが、国民経済の屋台骨である農業の改革は、政争と切り離してしっかり進めなければならない。
今週中にも開く政府の「食と農林漁業の再生実現会議」が、改革を実現できるかどうかを左右する大きなヤマ場となる。同会議は、昨年11月からの議論を3月中に中間整理することになっており、今回の会合で、実質的な改革の流れが決まる可能性があるからだ。
新制度の細かい点を固めるのは難しくても、日本の農業のあるべき姿を大きく描くことはできるはずだ。自ら実現会議の議長を務める菅直人首相と、学界、経済界からの会議参加者に、改革の方向が見える形で論点整理を期待したい。
菅首相は「平成の開国」を宣言し環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を目指している。そのTPPに加わるには、国内の農産物市場を段階的に開放していくことが条件となる。着実に改革を進め、農業貿易の自由化に耐えられる農業を築かなければならない。
TPPへの反対論は農家の間で根強い。その最大の理由は、日本の農業が今後どうなっていくか見えないからだ。競争力を高める道筋を政府が示せないままでは、農家が市場開放に不安を抱くのは当然である。
当面の競争力不足を補うために、農家を支援する方策も示す必要がある。農家への戸別所得補償の制度を生産性を向上させる方向で改正し、そのために必要な財源について実現可能な道を示すべきだ。
特にコメや麦など土地を多く利用する型の農業を強化する策が欠かせない。零細農家が農地を貸し出し、大規模な担い手に集まる仕組みをつくるべきだ。競争を通じて生産性を上げるには、これまでの減反政策を見直し、農業協同組合への独占禁止法の適用を拡大する必要がある。
菅政権と政府は、4月の統一地方選前に改革の方針を明確にし、有権者に政権の姿勢を示すのが筋だろう。農家や農業団体の反発を恐れ、現時点 で改革の姿勢を強く打ち出すのが得策ではないと考えるとすれば、大きな誤りだ。次世代の農業の担い手を含めて、多くの国民は農業改革を先送りにしてきた政 治の姿勢こそ問題と感じているからだ。
担い手の高齢化で日本の農業は存亡の危機にあるが、競争力のある農産物をつくり輸出を促進することなどで強い農業に変わるのも可能なはずだ。今こそ改革を急ぐときだ。