朝日社説 郵政決着―擦り切れる「首相の資質」(4/1)
2010年4月2日金曜日
見当違いのリーダーシップだと言わざるを得ない。鳩山由紀夫首相が主導した郵政改革案の決着のことである。
閣内や与党内にも異論があったが、亀井静香郵政改革相らの案に沿って進めることを決めた。ゆうちょ銀行への預け入れ限度額を2千万円に倍増、かんぽ生命保険の保障限度額を2500万円にほぼ倍増するという内容だ。
手っ取り早く規模を拡大して収益を増やそうという安直な路線である。
弊害ははっきりしている。郵貯は資金の大半を国債で運用している。資金が民間金融機関から郵貯に移れば、企業の設備投資などに回る資金が減り、経済の活力がそがれる。「中小企業をいじめるような法案」(山口那津男公明党代表)と言われても仕方がない。
民主党はもともとは郵貯の規模縮小や簡保の廃止を掲げていた。首相はなぜ逆方向の改革案をのんだのか。
亀井氏らを抑え込もうとすると、連立政権の危機につながりかねない。かといって、「学級崩壊」の様相すら呈する閣内の対立を放置すれば、イメージダウン は深刻になる。その一方、特定郵便局や労組などの郵政ファミリーを引きつければ参院選には有利だ。そんな事情があったのだろう。
政策判断より政局判断を優先した、後ろ向きの「裁定」というほかない。
鳩山氏のリーダーシップの迷走は、谷垣禎一自民党総裁が言う通り、もはや「首相としての資質」が疑われるところまで来ているのではないか。
きのうの党首討論で谷垣氏は、いろいろな問題を引き起こし、混乱を生んでいる真の原因は、「首相の言葉」そのものにあるのではないかと述べた。的を射た指摘である。
好例が米軍普天間飛行場の移設問題だ。首相は3月中に政府案をまとめることを「お約束する」と述べてきた。だが、3月末が近づくと「法的に決まっ ているわけじゃありません」などと言い訳し、「1日、2日ずれることが大きな話ではない」と言い放つに至った。「綸言(りんげん)汗の如(ごと)し」とい う言葉をご存じないのだろうか。
これでは、5月末までに「命がけで」決着させると聞かされても、有権者は鼻白むしかない。
この問題では、首相は「腹案」なるものがすでにあることを明かし、「考え方は一つだ」と語った。しかし、岡田克也外相は現時点で一案に絞るのは「ありえない」と述べたばかりだ。二人は口をきかない間柄なのか。
改めて指摘するのは残念だが、首相はともかく言葉をもっと大事にするべきである。自分の発言がどういう政治的意味を持つか、無頓着すぎる。
最高指導者として政策の方向性を定め、責任ある言葉で政権内を調整し、引っぱっていく。そんな首相の資質への期待が擦り切れかかっている。
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