菅新首相は政策本位の政権運営目指せ 2010/6/5付
2010年6月11日金曜日
民主党の菅直人氏が第94代首相に選出された。週明けにも組閣し、菅新内閣が発足する。
昨年の衆院選の民主党マニフェスト(政権公約)では、財源の裏付けのない子ども手当の創設など、当面の選挙対策を優先した政策が目立った。鳩山政権発足後 も小沢一郎幹事長の選挙至上主義が、政策決定をゆがめた側面は否めない。菅新首相の誕生を機に、政策本位の政権運営に転換するよう強く求めたい。
党政調の復活は当然だ
鳩山由紀夫首相はわずか8カ月半で退場した。鳩山氏は5月末に米軍普天間基地の移設問題を決着させるという約束を果たせず、社民党の連立離脱を招いたこと もあって、引責辞任に追い込まれた。鳩山、小沢両氏の「政治とカネ」の不祥事も響いた。菅新首相は有権者の信頼を取り戻し、統治能力のある政権の体制を整 える責任を負う。
その際に重要なことは小沢氏の影響力を排除することである。鳩山氏は党務を完全に小沢氏に委ね、代表であるにもかかわらず党運営の蚊帳の外に置かれていた。
党内では小沢氏が最高実力者と目されていた。内閣の下での政策決定の一元化という建前とは裏腹に、重要政策の決定に小沢氏が介入することもあった。党側の横やりで方針が二転三転した高速道路の新料金制度の迷走などを見れば、その弊害は明らかだろう。
菅氏は4日の記者会見で内閣・党役員人事について「官邸の一体性、内閣の一体性、党の全員参加を目標にする」と述べるにとどまった。ただ3日の出馬記者会 見では小沢氏と距離を置く考えを示しており、内閣の要の官房長官には仙谷由人氏を起用する意向だ。仙谷氏は小沢氏に批判的な勢力の中心人物である。
鳩山政権の政策決定が迷走した大きな理由は、鳩山氏の指導力不足とともに、首相官邸の調整力が弱かったことにある。菅新首相は閣僚に明確な指示を出して、 内閣の政策決定を主導してほしい。民主党が政権公約で掲げた閣僚委員会はほとんど機能しておらず、仙谷新官房長官の調整能力が試される。
菅新首相は小沢氏が廃止した党政策調査会を復活させる考えを示している。政党が政策を議論する組織を持つのは当然であり、政調の復活を評価したい。小沢氏 一人が突出した存在だった党運営を改める象徴的な出来事といえる。民主党が当初、構想していたように政調会長が閣僚を兼務するのが筋である。
鳩山政権では、経済財政担当を兼務した菅氏が、経済政策の司令塔を務めねばならない立場だった。しかし菅氏自身は、その経歴からみても適任だったとは言い難い。新政権では経済政策の司令塔役を誰に委ねるかが課題になる。
政治主導の掛け声の下に、各省の政策決定は政務三役が中心になる体制に改められた。政治家が政策決定の責任を負うのは当然だが、省庁が蓄積したデータや官僚をうまく活用していない。政務三役には官僚を生かす度量がほしい。
菅氏を代表に選んだ党代表選は政策論争がないまま終わった。4日の記者会見でも、菅新首相からは新政権のメッセージがほとんど伝わってこなかった。菅氏は 「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体的に実現する」と強調しているが、将来の消費税の取り扱いなどを早急に肉付けし、具体案を示す責任がある。
政権公約の見直し急げ
夏の参院選は迫っているが、菅新首相は党内で集中的に議論したうえで、自らの考えを参院選の公約に反映させなければならない。鳩山政権が準備した公約の中身をそのままにして、ただ表紙の顔を変えるだけでは有権者の理解は得られまい。
鳩山首相は対米外交でつまずいた。この教訓を生かし、亀裂が生じた日米同盟の立て直しが急務だ。菅新首相は日米関係を外交の基軸にすえると同時に、中国との関係を重視する考えを示している。日米と日中を並列に置くようにも受け取れる。
台頭する中国と良好な関係を築くことが、日本の最優先課題のひとつであることは確かだ。しかし日中間には東シナ海のガス田開発問題などの火種がくすぶり、中国の軍拡はアジア諸国の懸念を招いている。
中国に責任ある行動を促し、安定した日中関係を築くには日米同盟の後ろ盾が必要である。菅新首相は普天間基地移設をめぐる先の日米合意を着実に実行し、対中政策でも日米が緊密に協調できる関係を築いてもらいたい。
韓国哨戒艦の沈没事件を受け、緊迫する朝鮮半島の情勢からも目が離せない。鳩山政権は独自制裁の強化を決め、北朝鮮に圧力を加える姿勢を鮮明にした。この路線は北朝鮮側からの軍事挑発にも対応できる体制があって初めて成立する。新政権には万全の危機管理を求めたい。
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