安いが勝ち―通貨戦争 2010年 9月 29日WSJ

2010年9月30日木曜日

 輸出業者を守ろうとする各国政府の政治的な発言が過激さを増すなか、グローバル為替市場の緊張が高まり、貿易戦争の様相が強まっている。

イメージ Chris Ratcliffe/Bloomberg News

 少なくとも6カ国が活発に自国通貨の下落を狙った為替市場への介入を行っている。もっとも目立っているのが日本だ。5月以降14%値上がりした円の上昇を食い止めようとしている。

 米議会は、中国が通貨人民元を人為的に低く抑えているとして、同国を非難する法案を準備中だ。ブラジルは中央銀行の総裁が、通貨レアルを押し上げている短期の固定金利付き証券への投資に対する課税を検討していることを表明している。

 企業は常に競争力を高めようとし、政治家は常に大げさに騒ぐものではある。しかしグローバルな金融危機からの立ち直りが遅れているなか、各国の政策担当者が自国企業の利益を守ることに、より積極的になるのではないかという懸念が強まっている。

 シティグループのマクロ株式市場ストラテジスト、エリン・ブラウン氏は「保護主義の台頭は非常に大きなリスク要因だ」と語る。同氏は米中間選挙後、さらに保護主義の動きが強まるとみている。

 為替相場の緊張は来週ワシントンで開かれる国際通貨基金(IMF)世銀総会でも議題に取り上げられる可能性がある。

 日本の政府・日銀は今月、6年半ぶりに円売り介入を行った。介入の規模は約2兆円と、1日の介入額としては過去最大だったという。日本以外にも台湾、韓 国、タイなどのアジア諸国も自国通貨売り介入を行っている。南米では、ブラジル、コロンビア、ペルーが介入を実施している。

 米国では保護主義的な動きが強まっており、下院が30日に中国の為替政策は中国企業を不公正に支援しているという中国非難を決議する予定だ。上院でも チャールズ・シューマー議員(民主、ニューヨーク州)が中間選挙後に同様な決議を行うための準備を進めている。もっとも、法案成立の見込みは薄い。

 新興国の力強い経済成長が海外の資金を引き付け、新興国の通貨を押し上げている。米国では追加的金融緩和が見込まれている一方、アジアではインフレ懸念が高まり金利が上昇している。こうしたところから投資家は、高利回りを求め資金を西から東に移動させている。

 英銀HSBCの新興国通貨ストラテジー部門のトップ、リチャード・イェツェンガ氏は、「この資金の流れは健全なものだ」と語る。

 中国に対するアジア諸国の政府関係者の発言はおおむね控え目だが、他国の通貨政策を激しく批判する国もある。ブラジルのギド・マンテーガ財務相は今週、 米国、日本などに対し、自国通貨を安く誘導してブラジルのような輸出国の犠牲のもとに経済成長を促そうとしていると批判した。同国通貨レアルは今年30% 以上値上がりしている。

 同財務相は「われわれは為替戦争の真っ只中だ。この戦争はブラジルの競争力を奪う」と懸念を示した。また同国中央銀行のメイレレス総裁は同国に流入する 資金への課税の可能性を示唆した。同国の政策金利は10.75%。景気の過熱を防ぐためには金利を引き上げる必要がある一方、米国や日本で低金利で調達し た資金の流入によって通貨レアルが一段高となっている。

 10月3日に投票日を迎える同国の大統領選で選ばれる次期大統領は、通貨高への対処が経済面での最初の大仕事となる。ルラ大統領が後継に選んだジルマ・ ルセフ前エネルギー相は同国が11年前に導入した変動相場制を支持しているが、マンテーガ財務相など与党労働党にも多い強硬な介入論者からの圧力を受けそ うだ。


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【産経抄】9月26日

2010年9月26日日曜日

 平成生まれのみなさんへ。長かったいくさが終わって、中国がぼくたちの「ともだち」だった時期がほんのひとときあったんです。つきあい始めたころには、白黒の珍獣を友情の印に贈ってくれ、上野動物園には長蛇の列ができました。

 ▼こんな愛くるしい動物のいる国はきっと、やさしい人たちが住んでいるんだろうな、とぼくたちは信じました。もちろん、いくさで死んだ兵隊さんを祭った神社に偉い人が参っても文句ひとついいませんでした。

 ▼しばらくして、「ともだち」は、神社へのお参りに難癖をつけ、ぼくたちが持っている島を「オレのものだ」と言い出しました。びっくりしましたが、トウ小平というおじさんが「次の世代は我々よりもっと知恵があるだろう」と言ってくれました。

 ▼でも小平おじさんは、本当は怖い人だったんです。「自由が欲しい」と広場に座り込んでいた若者たちが目障りになり、兵隊さんに鉄砲を撃たせ、多くの人を殺してしまいました。みんなはびっくりして「こんな野蛮人とはつきあえない」と村八分にしました。

 ▼それでもぼくたちは、みんなに「こいつは本当はいい奴(やつ)なんだよ」と口をきいてあげ、貧しかった彼には、いっぱいお金をあげたり、貸してあげたりしました。おかげで「ともだち」は、みるみるお金持ちになりました。

 ▼そのお金で「ともだち」は軍艦や戦闘機を いっぱい買い、今度はもっと大きな声で「この島はオレのものだ」と叫びました。「次の世代の知恵」とは、腕ずくで島を奪うことだったんです。パンダにだま されたぼくたちは浅はかでした。「次の世代」のみなさんは、もっともっと力をつけて真の友人をつくってください。お願いします。

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日本のキングメーカー、ついに首相の座に動く 2010年 9月 11日 WSJ

2010年9月13日月曜日

 小沢一郎氏は、長期にわたる政界の権力者であり、昨年、半世紀近く続いた自民党政権を退陣に追い込んだ。周囲は彼を「選挙の神様」と呼ぶ。しかし、彼 は、愛されるというよりは恐れられる神様だ。無愛想で単刀直入、裏舞台で権力をふるうことが多く、メディアからは「陰の実力者」と呼ばれ、多くの日本人か らは嫌われる存在だ。政治とカネの問題で困難な状況にあることで、彼のイメージアップはとても望めない。

小沢氏 Bloomberg News

小沢一郎氏(左)

 そして、小沢氏は、同じ党出身の日本のリーダーを退陣させるため、対決の場である14日の代表選に向かって走り出した。勝者が手にする賞品は、彼が常に逃がしてきたもの、「首相の座」だ。

 小沢氏は、68歳にしてついに政治の表舞台に登場し、従来の強面イメージの払しょくに躍起だ。市民との対話集会では終始笑顔で、敬遠していたテレビのトーク番組では冗談もはさむ。

 小沢氏は約2週間前、代表選出馬を表明し、菅直人首相と対決する考えを示して日本中を驚かせた。民主党の議会勢力に基づくと、代表に選ばれれば、小沢氏 は首相になる。この大胆な行動は、1年前、自民党を圧勝で下した民主党政権にまだ順応できていない政治システムに新たな動揺をもたらした。

 小沢氏の経済政策――円高阻止に向けた為替市場介入、より大規模な財政出動、すでに高水準の負債を抱える政府による借り入れの可能性――は、東京の金融市場を混乱させている。

イメージ Associated Press

クリントン米国務長官(左)と小沢氏(09年)

 また小沢氏は、日本の外交を刷新するとして、より「対等な」日米関係と、沖縄の米海兵隊基地協定を見直す可能性を約束、米政府の神経を逆なでしている。

 小沢氏が代表選で敗北する可能性もある。しかし、彼が強力な党内2位の座にあることを示すことは、小沢氏に新たな影響力のある役割をもたらすかもしれない。そうならなければ、支持者と共に離党して、政治状勢を変えることにつながる可能性もある。

 議員生活41年の小沢氏は、日本の政界にあって第一級の戦略家だ。この20年の混迷の中で、政治システム構築に貢献してきた主役だ。彼の力の源泉は、そ の並外れた資金集め能力だ。小沢氏のことを良く言わない人でさえ、弱腰で優柔不断な最近の首相とは対照的な資質であるリーダーシップを彼が発揮するだろ う、と言う。

 また、小沢氏は「注目発言」でも知られる。2009年11月に「排他的なキリスト教を背景とした欧米社会は行き詰っている」との発言を大々的に報じられた。つい先月は、「米国人は好きだが単細胞なところがある」と発言した。

接戦の代表選

 代表選の投票に関する調査は、接戦を示している。菅首相が若干リードしているものの、態度未定者が多く、小沢氏が勢いを盛り返している模様だ。仏頂面で強面の小沢氏は、そのイメージを和らげ、「国民の味方」であるとの演出が功を奏している。

 小沢氏は、インターネットの動画サイト「ニコニコ生放送」のトーク番組に緊急出演した。小沢氏は、黒っぽいスーツ姿で背筋を伸ばして座り、若手の学者やジャーナリストと談笑した。話題は、雇用政策から彼が今読んでいる本など、多岐にわたった。

 人々と直接話すことができて、インターネットは素晴らしい、と小沢氏は同サイトでインターネットを称賛。新聞やテレビは、10行話したうちの幾つかの単語を拾い、都合の良いストーリーを作り上げる、と批判した。

 代表選の有権者は、党員・サポーター、地方議員を含む約34万人。しかし、全体の1%にすぎない民主党国会議員412人に、多くの議決権を与える複雑なしくみだ。

 民主党の国会議員、彼らこそが小沢氏の基盤だ。多くの議員の当選は小沢氏の支援によるところが大きい。

小沢流新人教育

 小沢氏の新人議員に対する教育は、ハードで厳しい。脳外科医から国会議員に転じた石森久嗣(いしもりひさつぐ)氏は、握手した人の数、張り出したポスター、配ったチラシの枚数について毎月、手書きの報告書を作成するよう小沢氏に指導された、と語る。

 元市議会議員で2児の母である岡本英子(おかもとえいこ)氏は、昨年の衆議院選に立候補した。その際、小沢氏は、彼女の事務所に側近を常駐させ、詳細な アドバイスを与えた。この側近は彼女に、地域のすべてのゴミ収集所で、1分間の演説を行うよう言った。通常、政治家は駅の街頭演説で見かけるが、素通りす る人は多い。しかし、政治家が近所に現れたら、びっくりして注意を払う。

 岡本氏は無事に議席を獲得し、今は小沢氏の代表選の応援に力を入れている。他の国会議員の訪問や電話、手紙で攻勢をかけている。小沢先生がいなければ、今の自分はいない、と岡本氏は言う。

イメージ Reuters

中国の胡錦濤主席(右)と小沢氏(06年)

 150名近くの民主党新人議員の誕生を受け、小沢氏は昨年、毎朝セミナーを開き、講師を招くなどして政治教育を行った。昨年12月には、国会議員と党支持者、総勢600名を率いて北京を訪れ、中国の胡錦濤国家主席の歓待を受けた。

自民党の権力者、離党、長い野党時代

 小沢氏は、長期政権が続いた自民党で育ち、年配の政治家の中で秘蔵っ子として扱われた。1980年代終わりから90年代初め、彼は「権力者」の地位を確 立、まもなく多くの首相よりも強い影響力を持つとみられるようになった。彼自身が首相になるのも時間の問題とされていた。

 しかし、1993年、小沢氏は、新たな日本の政策目標として、競争的な民主主義、すなわち民意により政権交代がなされる「政治改革」を掲げた。彼と支持 者グループは自民党を離党して新党を作ったが、すぐに他の勢力と連携し、非自民党政権を成立させることに成功した。彼は、競争的な民主主義を実現するた め、抜本的な選挙改革法案の成立にこぎつけた。

 しかしながら、連立政権は1年足らずで崩壊、再び自民党が政権を握った。それ以降、小沢氏は、政権奪取を胸に秘め15年間を野党で過ごした。

 そして昨年8月末の衆議院選挙で、民主党は圧勝した。非自民党政権が衆議院の過半数を占めるのは55年ぶりのことだった。

 2009年の勝利は小沢氏のお膳立てによるものだったが、彼は首相になることはできなかった。政治資金問題絡みで3人の秘書が逮捕されたため、党の代表 に就くには彼はクリーンさに欠けていた。民主政権が発足して数カ月、彼は自民党時代と同じ役割を演じるようにみえた。首相――当時は鳩山首相――を操る フィクサーとして。

 鳩山首相の辞任後、菅直人氏が首相に就任したものの、反小沢グループ中心の組閣となった。小沢氏の政治生命はこれで終わりかと思われたが、彼は先月末、2年に一度9月半ばに行われる代表選への出馬を表明、菅首相と対決する姿勢を示した。

 同じ党出身の首相を退陣に追い込む小沢氏の試みは、批判的に報じられている。新聞の世論調査では、一般市民の70~80%が菅氏の方が望ましいとの見方を示している。

 横粂勝仁(よこくめかつひと)衆議院議員によると、彼の選挙区では、有権者の5人中4人が小沢氏よりも菅氏が望ましいと考えている。横粂氏は毎日、路上で市民に呼び止められ、小沢氏を支持した場合、横粂氏支持を取り消すと言われるという。

 しかし、横粂氏は、小沢氏の決断力を尊敬している。菅首相のクリーンでオープンなスタイルは素晴らしいが、小沢氏の政治力と実行力も捨て難い、と話し、小沢氏を支持するかもしれないという。

 専門家によると、小沢氏が勝つ方が、菅氏が勝つよりも、党分裂の可能性は低い。小沢氏を支持する国会議員は若い世代が多く、組閣のためには菅氏に近い先輩格の議員を選ぶ必要があるからだ。

 一方、小沢氏の勝利は野党の攻撃を引き起こすかもしれない。野党の批判が強まり、問責決議という事態になれば、参議院で過半数に満たない民主党は問責決議案を否決できない。もしそうなれば、衆議院解散と新たな選挙の可能性もある。

宇都宮で演説会

 9月7日、小沢氏は宇都宮市内で演説会を行った。うだる暑さの中、約千人もの党員やサポーターなど――大半が高齢夫婦、中年男性――が、普段は結婚式場として使われている宴会用ホールに集まった。

 田中真紀子・衆院議員が応援演説を行った時、会場は沸いた。田中氏は、短命に終わった最近の首相らを「よくしゃべる」が弱い、と批判。もうすぐ真の首相に会える、と小沢氏を持ち上げた。

 小沢氏は、この日の演説で、代表選で繰り返して使っているポピュリスト的なメッセージを送った。貧富、都市と地方、といった格差が問題であり、この格差是正を目指すとし、(目標を達成するために)「政治生命のすべて、命をかけて戦う」とこぶしを握りながら訴えた。

 支持者のひとり、山梨アイ子さん(72歳)は、演壇のそばに場所を確保するため、早い時間に到着した。彼女は、小沢氏の似顔絵で飾られたお手製のうちわ を持参。小沢氏が会場を去ろうとした時、山梨さんは彼に駆け寄り、彼女と息子の投票用紙――小沢氏の名前が記入されていた――を見せ、握手を交わすことが できた。

 演説会の後、山梨さんは興奮しながら、「小沢さんしかいない。言うことが決してぶれない」と言った。

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新卒就職対策 成長戦略こそ最大の支援策だ(9月6日付・読売社説)

2010年9月8日水曜日

 政府が先に取りまとめた、「経済対策の基本方針」の一つに、新卒者の就職支援がある。

 この春の大卒の就職内定率は91・8%で、この10年で最低だった。デフレや円高の進行など、経済情勢の不透明化で企業の来春の採用予定者数はさらに減少し、就職戦線は一段と厳しさを増している。

 菅首相も、「一に雇用、二に雇用、三に雇用だ」と強調しているが、求められるのは結果だ。民主党代表選の行方にかかわらず、新卒者を中心に、若者の安定した雇用の場をいかに確保するかは、緊急の課題である。

 政府が打ち出した新卒者支援策の柱は、採用意欲の高い中小企業への就職促進だ。

 まず、大学やハローワークの就職相談員を増員し、両者が緊密に連携することで中小企業の求人を開拓する。同時に中小企業の魅力を新卒者に発信し、就職につなげていくという。

 多くの新卒者が、成長の可能性を秘めた中小企業で働くようになれば、産業界全体の活性化にもなるのではないか。

 さらに、卒業後も就職先のない人や留年生を対象に、体験雇用や職場実習を受け入れた企業に奨励金を支給する。卒業後3年以内の既卒者を新卒枠で採用した企業にも、奨励金を支給する。

 深刻な就職状況下では、奨励金で採用を促す工夫も必要なのだろう。いったん卒業したら就職の窓口が極端に狭くなる現状は、改めていかなければならない。

 ただ、円高や少子高齢化による国内需要の減少を背景に、製造拠点を海外に移す企業が相次いでいる。こうした構造的変化には、就職相談員の増員や奨励金の導入では根本的な解決にならない。

 6月に決定した政府の「新成長戦略」では、速やかにデフレを終結させ、日本経済を本格的な回復軌道に乗せる、としている。

 まさに企業の採用意欲を高める戦略が欠かせないが、目標実現に向けた政府の動きは鈍い。

 今回の「基本方針」には、中小企業の技術開発支援や規制・制度改革、国内への投資を促す税制上の措置も掲げられた。こうした施策もスピードが肝心である。

 学生の職業意識の欠如やコミュニケーション能力の低下を指摘する調査結果がある。海外でも通用する人材など、専門性を重視する企業が増えてきた。

 政府や大学、そして大学生自身も、こうした現実に目を向けた対応が求められよう。

2010年9月6日01時02分 読売新聞)

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【オピニオン】誰が円高を恐れるのか? WSJ 2010年 9月 7日 11:12 JST

 最近の円高を受けて、日本では政治家やメディアが興奮しまくっている。紋切り型の理屈では、強い通貨は輸出企業にとって悪い材料で、現在のように輸出主導型の景気回復には潜在的に深刻な打撃になる。しかし、円高の真の効果は大半の人々が考えるのとは異なっている。

 意外なことに、円高の最大の影響は、輸出企業にではなく、国内市場で販売している日本企業や伝統的に円高に無関心な官僚や政治家に強く表れているよう だ。海外での販売に依存する企業は、必ずしもかつてのように輸出に依存していない。これら企業は、競争上の圧力や長期的な円高トレンドに対応して、ずっと 以前に生産拠点を海外にシフトし始めた。1997年から2007年までの10年間で、製造業者は海外生産比率を11.4%から19.1%に拡大した。日本 の最も競争力のある輸出企業は同時に海外生産の先導役でもある。日本の輸送機材(自動車を含む)の39.2%、情報・通信機器の28.1%が現在、海外で 生産されている。 


東京湾岸のコンテナ基地

東京湾岸のコンテナ基地


 その結果、日本は今や、海外への輸出自体ではなく海外投資からの収入に多くを依存している。確かに、日本の競争力のある自動車・エレクトロニクス業界の 間では、海外進出の動きが05~07年の間にピークに達した。この間の円安が海外進出トレンドが逆転する一因であったかもしれない。しかし、最近の円高を 受けて、競争力のある輸出企業は戦略を再検討し始めているから、こうした企業が海外工場での投資拡大を検討しない理由はどこにもない。 

 このことは国内雇用に影響を及ぼすし、政策当局者の懸念にもなるだろう。だが、その影響の度合いは一般に考えられているほど大きくはないかもしれない。 経済産業省(METI)の最近の調査では、現在の円高水準が続くとすれば、海外の工場への投資を一段と拡大すると回答した製造企業は全体の61%に達する という。しかし既存の工場を海外の工場に置き換えようとする企業はわずか39%にすぎない。つまり、製造業者の大半は、海外投資に現在使っていない資金 (日本企業は企業貯蓄率が高いおかげで、こうした資金を豊富に保有している)を拠出するとしており、必ずしも国内工場を閉鎖するわけではないということ だ。

 一方、日本の企業社会の中には円高の恩恵を享受し始めている部門もある。多くの輸出企業は既に円建てで契約している。日本の通関統計によれば、米国を除 いて、日本の輸出製品をネットベースでドルで支払っている海外の地域はほとんどない。その結果、ドル建てのシェアは輸出で48.6%、輸入で71.7%と なっている。また円建てシェアは輸出で41%、輸入で23.6%だ。つまり、日本はますます強くなる円で輸出品の支払いを受け、ますます弱くなるドルで輸 入品の代金支払いをしている。

 METIの調査でわかった重要なポイントは、円高の最大の危険は、輸出市場シェアが侵食されることではなく日本国内市場での輸入製品との競争激化だと回 答している製造企業が41%に達している点だ。これに対し、現在のドル・円水準では貿易相手国が日本の輸出製品を購入しなくなってしまうと回答している企 業はわずか33%だ。

 これは、これまで外国の消費財・サービス輸入を制限しようと努力してきた日本のような消費依存経済大国の病理の一断面を示している。これまで外国製品に 差別的だった日本の消費者は、円高で輸入品が安くなっている時期に既存の国内の財・サービスを購入する価値が本当にあるのだろうかと自問し始めているよう だ。円高は本質的に、外国の財・サービスの輸入のさまざまな障壁を少なくとも部分的に相殺しているのだ。

 つまるところ、円高論議の盛んな現在こそ、海外に焦点を当てるのではなく、長くないがしろにされてきた日本国内の財・サービス部門の在り方を徹底的に検 証する好機だ。これは国内企業にとっても政策当局者にとっても難題だ。日本は戦後長らく、輸出依存型の成長に毒され続けたため、政治的な無関心と効果の上 がらない政策決定を許してきてしまった。これが政治家たちが依然として円・ドル水準にかくも執着する理由の一つだ。

 日本企業と政策当局者は、どうしたら国内の消費者の新たなニーズにうまく対応できるか? 日本の最も優れた企業が海外に投資して海外工場での生産を拡大 したのとまさに同じように、国内販売企業はまず国内で流通、マーケティング、そしてサポートという一連のプロセスを検証し、そして改善すべきだ。政策当局 者は企業のこのプロセスを側面支援するため、企業が適用困難な規制を緩和する努力を払わなければならない。中小企業の立ち上げを困難にしている規制を撤廃 し、生産性を向上させる技術に投資するよう税制措置を導入することだ。

 政策当局者はまた、為替レートへの介入、ないし外国企業への参入障壁を高くすることによってこのプロセスを抑えようとする誘惑に抗すべきだろう。日本の企業社会がこの移行を遅らせれば遅らせるほど、その実現は困難になるだろう。

 (ナオミ・フィンク氏は三菱東京UFJ銀行のストラテジスト)

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日本の追加対策は型通り、必要なのは構造改革 8/31WSJ

2010年9月1日水曜日

 世界の経済力ランキングで中国に抜かれ、失われた20年は言わずもがな。こうした状況からだれもが、日本の政策担当者が大胆な行動に出ると考えるはずだ。しかし、そうではないのだ。日本の政治家と中央銀行は投資家に対し、いつものようなやり方で対応しているだけだ。

 急激な円高に対応するため、30日開催された日銀の臨時金融政策決定会合を見てみよう。日銀は、昨年12月に開始し今年3月に既に拡大していた短期資金 貸出プログラムについて、資金供給額をさらに10兆円拡大することを決めた。一方、政府は、消費促進や急激な円高で打撃を受けている輸出企業支援など 9200億円を財源とする追加経済対策を発表した。

 追加資金供給には、為替を円安にし輸出競争力を高めることにより、日本経済の長期低迷を打破するという意図があるのだろう。投資家は、中央銀行と政府間 で政策協調が一段と拡大したとの見方から、安心するはずだ。菅直人首相はこの1週間、日銀の白川方明総裁と数回にわたり、政策協議を行った。寛大に解釈す れば、今回の金融緩和により、追加経済対策のとらえどころのないケインジアン的乗数効果が高められる可能性はある。

 しかし、現実はかなり違う。日本の金融上の問題は、資金供給が不足しているのではなく、資金需要がないことなのだ。今年3月までの1年間の企業純貯蓄が 国内総生産(GDP)に占める比率は7.3%だ。これは、多くの企業にはすでに、成長や雇用創出に向けた多額の手元資金があることを意味する。問題は企業 がそうしたくないことだ。日銀が大手銀行50行の融資担当者を対象に実施した最新調査によると、過去3カ月で企業からの融資需要が僅かあるいはかなりあっ たと回答したのはゼロだった。15行の担当者は融資需要はやや落ちたと回答し、残りは前回と同程度と答えている。

 日本がこの活力問題を解決するまで、日銀は永久に効果のない政策を続けることになる。麻薬中毒のようにその都度1回打てば、一時的に「ハイ」になるかも しれない。日銀の短期貸出ファシリティの創設と最初の拡大により、円相場は小幅下落し、株式相場も上昇した。しかし、これらの効果は一時的で、日本経済が この麻薬に慣れてくれば、同様な効果を生むために服用量を増やすことが必要になる。30日の発表に対する市場の反応は下火になり、円相場もほとんど反応薄 となった。

 日本が真に必要としていることは、経済再建に取り組むことだ。それには減税、郵貯銀行の規制緩和あるいは民営化などの構造改革が必要になる。しかし、法 人税減税提案の例外を除き、日本の政治家はこれらの改革路線に沿って努力することに抵抗してきた。現在は全く逆行している。菅首相率いる民主党政権は、当 初の郵政民営化から後退し始めている。困難な政治的選択をするよりも、中央銀行を非難していることほうが格段簡単なことだ。一方、中央銀行も修復できない 問題を解決しようと信用供与を拡大する。

 日本の指導者が意味ある改革を履行し始めるまで、日本経済は低速ギアのままで推移し、為替や他のほぼ二次的な問題をめぐり、政治的な問題が散発的に噴出 するだろう。恐らく日本の政治家は、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長が先週末、ワイオミング州ジャクソンホールでの中銀関係者シンポジウムで 行った講演の重要部分を聞いていなかったか、ほとんど理解していないのだろう。議長は「中央銀行だけで世界の経済問題を解決することができない」と指摘し ていた。

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