日経社説 日本企業が世界に羽ばたく経済外交を

2010年2月22日月曜日

社説 日本企業が世界に羽ばたく経済外交を(2/22)

 原子力発電所や鉄道など海外のインフラ受注競争で、日本企業が敗退する例が目立つ。インフラ受注のカギは技術や価格だけではない。事業の運営や人材育成をはじめ、相手国のさまざまなニーズに応える必要があり、軍事協力など別の要因が発注先選定に影響する場合もある。

 官民一体で商機をつかもうとする欧米諸国や韓国などに対し、日本企業は優れた技術を持ちながら、十分に競争力を発揮できていない。

アブダビの教訓に学べ

 巨大な需要をつかみ、それを日本の産業の今後の成長に結びつけるために、政府の側面支援を強化し、官民連携の体制づくりを急ぐべきだ。

 象徴的な商戦は、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国の原発の建設(事業費約3兆6千億円)である。日米連合とフランス、韓国が競い、韓国が受注した。

 日韓の最大の違いは政府の取り組みだ。李明博・韓国大統領はトップセールスを繰り返し、公営企業である韓国電力公社が60年間にわたり現地で原発を運転する作業と、現地の技術者の訓練も受託した。

 発電事業を手がける電力公社と政府が前面に出た韓国に対し、日米連合の中核は、設備メーカーの日立製作所とゼネラル・エレクトリック(GE)。操業や人材育成などソフトが重要な商戦に、ハード中心の枠組みで対応したのが敗因の一つだ。

 ベトナムの原発第1期工事でも、日本勢はロシアに後れを取った。受注の見返りにロシアがベトナムに潜水艦を供与するとされる。軍事を絡めたビジネスは批判されるべきであり、武器輸出を原則禁止している日本が主導してこうした動きの広がりに歯止めをかける必要がある。

 その一方で、売り手の国の総合的な外交活動が商戦の行方を左右する現実も直視しなければならない。

 韓国政府は「原子力発電輸出産業化計画」をまとめ、日米仏が独占していた世界の原発市場でシェア2割を目指している。ドイツはウェスターウェレ外相が産業界の代表とともにアジアや中東を飛び回り、鉄道施設の売り込みに努めている。

 米国でもオバマ大統領が一般教書演説で「国家輸出戦略」を示し、2009年に1兆ドル強だった輸出額を5年間で倍増させると宣言した。

 ゲームのルールが変わったと考えるべきだろう。金融危機に伴う内需の停滞で、先進各国の政権は輸出促進にかじを切り始めた。アブダビの原発商戦で韓国が受注した金額は、約3.6兆円。高級乗用車を100万台売るのに相当する輸出額を一つの商談で獲得した計算になる。

 輸出を伸ばそうとする各国が照準を合わせるのは、まず途上国・新興国のインフラ建設である。発電所や送電網などの電力部門や、鉄道、港湾、道路などの運輸部門に、広大な市場が開けつつあるからだ。

 アジア開発銀行の試算によると、20年までにアジア域内だけで約8兆ドルのインフラ投資が必要とされる。上下水道や海水淡水化など「水ビジネス」も有望な分野だ。

 インフラ・ビジネスでは、得意とする製品やサービスを売り込むだけでなく、相手国が何を必要としているかを踏まえて包括的な解決策(ソリューション)を提供する力も問われる。企業も入札待ちから提案型へとビジネスを切り替えるべきだ。

 民間企業だけではリスクや責任を負い切れない場合も多い。特定企業に肩入れしない公平性や透明性の確保が大原則だが、政府の外交活動や公営企業の参加など公的部門の役割が今まで以上に重要になる。

新・重商主義が潮流に

 政府が輸出の先頭に立つ新しい「重商主義」の潮流の中で、日本も経済外交に力を入れないと商機をつかめない。外務省は05年に在外公館の企業支援ガイド ラインを改訂した。大使館や領事館には、相手国への働きかけなど営業支援が期待されている。外交官が「民間の商売には介入しない」などと語る話は聞かなく なったが、まだ諸外国に比べて連携が十分とはいえない。

 Jパワー(電源開発)が海外で発電所の受注を増やし、JRグループが新幹線やリニアで国際営業を展開するなど、インフラ関連企業の姿勢も積極的になりつつある。水の分野では東京都や大阪市、川崎市など技術・ノウハウを持つ自治体の海外事業への関心も芽生え始めている。

 こうした動きを支援し、日本全体の競争力強化につなげる努力を政府は惜しむべきではない。

 首脳や閣僚による売り込みが功を奏する例もあれば、輸出金融や貿易保険、政府開発援助(ODA)など資金面の扱いが重要な場合もある。

 経済産業省は海外インフラ受注の支援強化の方針を決めたが、経産省だけでなく日本の総合的な外交力が試されている。鳩山政権は、これを経済成長戦略の柱の一つに明確に位置付けるべきだ。

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