円の神話 ウォール・ストリート・ジャーナル 2010年 8月 25日 7:13

2010年8月25日水曜日

 円は24日のアジア時間帯に対ドルで15年ぶり高値をつけ、日経平均株価は9000円を割り込んだ。与党民主党はこれまで円に対し無干渉姿勢を取ってき たが、6年ぶりの為替介入の承認に近づいているもようで、日銀は象徴的な行動を取る圧力にさらされている。また、政府は引き続き予備費を使った1兆 7000億円規模の追加景気対策の利用も可能で、一段の景気刺激策が実施される可能性もある。しかし、こうした措置はいずれも誤りだ。なぜなら円相場は経 済実態への注意をそらす「煙幕」だからだ。


 まず第一に、円が実際強いのかどうかは疑問だ。日本の何年にも及ぶデフレと貿易相手諸国のインフレを考慮すると、円は15年ぶり高値を引き続き28%下 回っている。たとえば、ドル・円相場が1ドル=100円だった数年前に、日本からの輸出品が100円だったと仮定しよう。今、その輸出品が85円で、対ド ルでの円相場が1ドル=85円だったとしたら、どのように違うのかということだ。

 これはドル・円相場がデフレという基本的な病の象徴に過ぎないことをまさに思い起こさせるものだ。為替相場は結局、通貨の相対的な供給によって決まる。 デフレ時には、信用創造の機能が停止する。つまり、日本の銀行融資は再び縮小しつつあり、7月には8カ月連続での減少となった。日本経済と通貨供給量は下 降スパイラルに落ち込むリスクにさらされている。


 一方、大量のドルが出回っている。現在の円高局面は一部には、米連邦準備理事会(FRB)が「量的緩和」継続を決定したことにより誘発された。これは銀 行システムに追加の流動性を供給する措置で、2001年に日銀が始めた。日本の場合は、実体経済への影響はほとんどなかった。


 円が注意をそらす「煙幕」だというもう一つの証拠は、円が景気循環に逆行しているという事実だ。通常、景気拡大に伴い金利が上昇し、従って通貨が上昇す る。しかし、日本の場合は、リセッション(景気後退)を受けて、円相場が過熱している。これは日本の企業が投資資金を本国に引き揚げているからかもしれな い。

 日本の長期にわたるデフレとの戦いをめぐる奇妙な環境が他の例外的な現象も引き起こしている。日銀が名目金利をほぼゼロ%付近に据え置いていることか ら、円は世界の資金調達通貨となった。円を利用して高金利通貨を買い入れる「キャリートレード」は事実上、円の膨大なショート(売り持ち)ポジションで、 円安につながった。しかし、米国など日本以外の国のインフレ率が低下するにつれ、金利差が解消し、レバレッジに向けたドルの魅力が一段と増した。円キャ リー・トレードの解消に伴い、大量のショートの踏み上げにつながっている。


 強い円が「非常に悪いこと」――という固定観念を伴う重商主義を日本が克服すると期待しても無理だろう。また、日本の景気回復がほぼ全面的に輸出の伸び に依存していることは気がかりであることも認めよう。日本の輸出業者は自分たちの製品が世界市場で競争力を失いつつあることに苛立っている。トヨタの概算 では、円高・ドル安方向に1円進むとごに、同社の通期純利益は約300億円縮小する。これは同社の今年度の通期利益見通しの約10分の1に相当する。


 しかし、円は数十年間にわたって上昇トレンドを続けてきた。まさにこのことが、トヨタのような輸出企業がこれほどの効率性を維持することにつながった。


 一方、これよりずっと大規模な日本の国内志向の企業セクターは、円相場の上げ下げにかかわらず、引き続き停滞している。こうした企業を生き延びさせるこ とこそ、実に難しい問題だ。これは為替介入と景気刺激策という得意な対処策を諦め、それに代わって、規制緩和に焦点を絞り、政府規模を縮小し、減税を進め ることを意味する。

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新卒者体験雇用事業について

2010年8月19日木曜日

働くナビ:就職氷河期対策で導入された「新卒者体験雇用事業」の成果と課題は。

 ◆就職氷河期対策で導入された「新卒者体験雇用事業」の成果と課題は。
 ◇企業と若者が「お見合い」 少ない事務職の求人、広報体制の強化も必要
 ◇中卒~大卒の702人利用し244人が正規雇用に

 第2の「就職氷河期」とも言われる厳しい就職戦線。政府は、卒業後も就職活動を続ける若者を支援しようと「新卒者体験雇用事業」を新設した。1~3カ月の間、体験的に働くことで企業と若者の“お見合い”期間を設け、正規雇用へつなげようとする取り組みだ。実際に就職に結びついた人もいるが、学生や企業に対する広報などで課題が浮かんでいる。

 7月21日、長妻昭厚生労働相は、飲食店チェーンなどを展開する企業「ラムラ」の食品加工工場(千葉県市川市)を訪れた。同社は新卒者体験雇用事業を使って今年4月から3人を受け入れている。そのうち県立高校を今春卒業した馬場綾子さん(18)を1カ月の体験雇用を経た5月中旬から正社員として採用した。

 馬場さんがこの制度を知ったのは、「高校卒業後も就職が決まらず、いつまでもふらふらしているわけにはいかないので」と訪れた地元のハローワーク。「新卒者体験雇用制度」と書かれた紙を見つけて担当者に話を聞いたことがきっかけだった。「いきなり入るより試してみて大丈夫だったら、という安心感があった」と応募。正社員として就職につながり、喜んでいる。

 この制度をハローワークで知った馬場さんだが、最初はハローワークには若い人が利用するイメージがなく、未就職のまま卒業するまでは家族に勧められても行く勇気がなかったという。「学校などを通じて制度を知ることができればもっと利用する人がいると思う」と話す。

 広報の問題点は企業向けにもあった。工場を訪れた長妻氏が、同社の村川明社長らに制度をどこで知ったか尋ねたところ、「新聞記事でたまたま見つけた」。人事担当者がハローワークに詳しい内容を問い合わせ、制度を利用したという。

 村川社長は「入社しても3カ月で辞めていく人もいることを考えると(入社前に体験的に働ける同制度は)いい制度。学校と企業とハローワークが一体となってコミュニケーションが取れれば、もっといい成果が上がるのではないか」と指摘する。

 長妻氏は視察後、記者団に「広報など取り組みを強化しないといけない」と述べた。

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 同制度は昨年の緊急経済対策に盛り込まれた。長引く景気の低迷から、新規採用に及び腰になる企業に採用を促すとともに、就職が決まっていない若者には仕事内容を見極める機会を提供。職種の「食わず嫌い」にならないよう選択肢を広げる機会を作るのが狙いだ。今年度限りの事業で、約2400人分の予算3億7400万円を09年度2次補正予算で計上した。

 6月からは体験雇用の期間を、1カ月から最長3カ月まで拡大した。受け入れ企業には1カ月目は8万円、2、3カ月目はそれぞれ4万円が奨励金として支給される。

 4月以降、全国で702人が利用、320人が体験期間を終了し、うち244人が正規雇用された(7月11日現在)。利用者の内訳は大卒299人(うち正規雇用は100人)、高卒344人(同117人)、中卒59人(同27人)。

 ただ、大卒者の希望が集中する事務職の求人は多くないため、体験雇用の受け皿さえ足りない「ミスマッチ」が生じるなどの課題もある。

【山田夢留】毎日新聞 2010年8月2日 東京朝刊

厚労省、新卒1万人就職支援 来年度、試験雇用の助成増額

2010/8/19付 日経

 厚生労働省は、大学生や高校生の就職を後押しするため、2011年度から若年層を対象に支援制度を強化する。新卒者を試験的に雇う企業を 支援する「新卒者体験雇用事業」で、企業への助成額を5~9割引き上げ、対象者を年2400人から1万人超に拡大する。フリーターを正社員として雇用した 企業に最大100万円を支給する制度でも、対象者を25歳未満に広げる。景気の先行き懸念に対応し、雇用の安定を目指す。

 今月末に締め切る11年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。菅直人首相は17日、「若い人の雇用が大変厳しい」と話しており、雇用情勢次第では経済対策として一部施策を前倒しで実施する可能性もある。予算規模は合計で300億~400億円程度の見込みだ。

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「新卒一括」にとらわれず多様な採用を 2010/8/16付 日経

2010年8月18日水曜日

 働き口が見つからずに卒業する大学生が急増している。多くの企業の採用が4月に新卒者をまとめて雇う「新卒一括」だけなので、就職のチャンスは事実上一度に限られ、卒業後は職探しが難しい。職に就けない若者の増加は社会の損失だ。


 企業の採用がもっと多様になれば既卒者でも就職しやすくなる。採用絞り込みが続き、求職者が増えるとしても、既卒者という新しい労働市場が生まれ、人材の供給源になる。企業は新卒にとらわれすぎている採用を見直すときだ。


既卒労働市場の育成を


 今春卒業した大学生54万1千人のうち就職も進学もしなかった人は8万7千人で前年より28%も増えた。企業は海外事業を拡大し、国内の雇用は増えにくい。急激な円高も加わって景気は先行き不透明だ。就職の環境は容易には好転しないだろう。


 だからといって多くの若者が職に就けない現状を放置はできない。経済情勢によって就職が左右され、フリーター暮らしを強いられる若者が増えれば社会の活力が失われる。

 学生の就職活動が早期化、長期化して大学教育の足かせになっている問題も見過ごせない。学生によっては大学3年生の夏ごろから「就活」を始める。「さあこれから専門教育という時期に学生が勉学から離れていく」と嘆く大学人は多い。


 新卒一括採用に固執しない有力企業も出始めてはいる。西日本旅客鉄道は2009年の採用から既卒者に門戸を開いた。駅の業務や列車運転などの要員として29歳以下を09年春に44人、今春は39人を採った。


 日本IBMは大学卒業後1年半以内なら新卒とみなして採り、一般の新卒と同じ研修で情報システム提案などの技能を習得させている。12年春 の採用からは卒業後2年以内を新卒とみなす。新卒扱いとする卒業後の年数をもっと延ばす動きが出てくれば既卒者の就職機会が広がろう。


 新卒一括採用は高度成長期に年功序列とともに定着した。勤続年数に応じて賃金を上げる年功序列は社員を生え抜きで固め、入社年次ごとにグループ分けする狙いだった。


 だが年功序列が崩れつつある今、新卒一括採用は意義が薄れている。募集と選考の時期を集中させて効率的な採用ができる新卒一括方式は当分続くとみられるが、有能な人材を幅広く確保するうえでも採用をより柔軟に変えていくべきだろう。


 リクルートの調査によると、来春の大卒者への求人倍率は従業員300人未満の企業では4.4倍。中小企業は既卒者の有望な就職先だ。日本商 工会議所の委託でリクルートは、今春大学を出たが未就職の若者にインターネットで中小企業の求人情報を提供し始めた。既卒者の労働市場育成は経済活性化に つながる。


 大学側も変わらなければならない。新卒一括採用の慣行にもたれかかり、きちんとしたキャリアガイダンス(職業指導)を怠ってきたのが実情だ。どんな職種や企業が自分に向いているかを個々の学生に気づかせる指導に取り組む必要がある。


 大学教育関係者の間で最近、危機感も広がってきた。文部科学省は来春から大学・短大の教育課程にキャリアガイダンスを義務付ける。具体的内容は現場に委ねられるが、「職業指導という名の授業」では意味がない。企業や様々な仕事のプロと連携して学生の意識を高めてほしい。


キャリア教育は不可欠


 職業観や勤労観をはぐくむには大学からの指導では遅い。こういう反省機運も教育界から出てきた。高校、あるいはもっと早く小中学校の段階から、将来の生き方や職業選びを考えさせる「キャリア教育」の試みが全国に広がりつつある。


 制度面でも、中央教育審議会の特別部会が、実践的な職業教育に特化した新しいタイプの学校を創設するよう求めるなど改革案が浮上しはじめた。新タイプの職業学校は高卒者を対象に、IT(情報技術)分野などの人材育成を担うという。


 従来の専門学校との違いなど制度設計はこれからだが、戦後ずっと続いている「6・3・3・4」の単線型の学校体系を見直す契機になるかもしれない。適性も興味関心も多様な現代の若者の新しい受け皿になるよう、知恵を絞ってもらいたい。


 親の意識改革も求められる。高校進学者の約7割が普通科に進むが、その背景には「とりあえず無難だから」という保護者の思いがあろう。


 「とりあえず」普通科に進み、目的意識もなく大学に入り、結局は就活に膨大な時間を費やす――。こんなコースばかりでは、生き生きとした人材は生まれない。若者の就職難の根っこには、硬直的な採用慣行や教育システムがある。企業も学校も改革に踏み出すときだ。

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未来の教室―情報化で学びが変わる 2010/08/18朝日社説

 202X年、ある小学校の教室。



 ――先生が電子黒板に触れるたび、モニターの音声つき動画が次々切り替わる。子供の机にあるのはかさばる教科書でなく、iPadのような、あるいはもっ と薄型の情報端末だろうか。校内には無線LANが張り巡らされている。ネットで調べ、タッチペンで書き込む。先生が「A君の解き方を見てみよう」と映し出 す――。



 ICT(情報通信技術)化という大波が、学校現場に押し寄せようとしている。



 小中高校に配備されたコンピューターは現在、子供6.4人当たり1台。政府はそれを2020年度までに1人1台にする目標を打ちたてた。総務省、文部科学省それぞれの実証研究が、各地のモデル校で始まる。



 デジタル教材・教科書の研究開発も急ピッチだ。先月末には、情報通信や教育関連企業による協議会が発足。ソフトバンクの孫正義社長は「通信代はタダ。我々も応援します」とぶちあげた。市場は大きく、いろんな思惑が超高速で駆けめぐっている。



 大切なことを忘れてはならない。ICT化によって子供たちの「学び」がどう変わるか、ということだ。



 東京都日野市教委は早くから態勢を整え、パソコンのグループウエアソフトを使った授業に取り組んできた。たとえば班ごとに理科実験の様子をデジカメで撮 り、載せる。すると他の班の子が「うちの班はこうだよ」と意見を書き込む。「へえ、そうかあ」とヒントをもらった子がまた考える。



 ネットワークでつながった子同士が互いに学び合い、高め合う。遠くの学校との共同授業もできる。そんな可能性を広げるツールになると、同市立平山小の五十嵐俊子校長は強調する。



 教える内容をわかりやすく示せるのはもちろんだ。一人一人の学習の履歴を把握でき、それに応じて指導もきめ細かくできる。新しい学びのカタチをしっかり描きつつ、コンテンツやハードの整備を進めるべきだろう。



 じゃあ、コンピューターが子供に教えてくれるのか。そもそも教師なんか要らなくなるのか。「紙とエンピツ」世代からは懸念も聞こえてくる。



 そんなことはない。ネットの向こうの膨大な「知」から必要な情報を探し出し、編集し、どう発信するか。ネットは現実をどんな風に映し、五感で感じる現実とどう違うのか。情報とのつきあい方、使いこなし方を身につけさせるのは、やはり先生の仕事だ。



 何より、ネットで限りなく世界が広がるとしても、顔をつきあわせ、言葉を交わすコミュニケーションこそ、生きる力を養うのには欠かせない。



 ICT化が進むほど、リアル教師の役割は大事になる。教員養成課程や研修でのサポートも必要だろう。


http://www.asahi.com/paper/editorial20100818.html?ref=any#Edit2

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政府・日銀は円高加速に機動的対応を 2010/8/5付 日経

2010年8月6日金曜日

 円高が進んでいる。東京外国為替市場で円は1ドル=85円台と昨年秋以来の高値をつけた。景気の先行きを懸念し、10年物国債の利回りでみた長期金利も1%を下回った。

 デフレ下の円高は日本経済に重荷になるばかりか、企業活動を海外に追いやり、国内の雇用を失わせる要因にもなりかねない。政府・日銀は警戒を緩めず、機動的に対応できる態勢を整えておくべきだ。

 円は1995年4月につけた最高値である1ドル=79円75銭に迫っているが、実勢はどうか。世界中で販売されている「ビッグマック」の各国での値段を比べて、英誌「エコノミスト」が円・ドル相場の理論値(購買力平価)を試算したところ1ドル=85円台だった。

 購買力平価は幅を持ってみる必要があるにせよ、今の円相場は95年の時ほど著しく経済実勢からかけ離れているとはいえない。企業は比較的冷静で、4~6月期決算を発表中の上場企業は90円台だった想定レートを80円台後半に修正しつつある。

 とはいえ、現在の水準から一段の円高が進むようだと、日本経済に負の影響を及ぼしかねず、注意が怠れない。消費者物価指数の前年比はなおマイナスだ。そんななかでの円高は、輸入物価の下落を招きデフレからの脱却を一層難しくする。

 企業が円高に適応しているといっても、大手製造業を中心に海外生産・海外販売の比重を高めてしのいでいる面が大きい。円がさらに上昇すれば、成長力の低い国内を見捨て海外に走る動きが加速しかねない。

 雇用のすそ野の広い製造業による生産の海外移転は、国内の雇用を失わせる要因となる。介護などのサービス業で雇用をつくるといっても、賃金 水準が相対的に下がる可能性が大きいことは覚悟する必要がある。企業の海外拠点からの受取利息や配当は日本経済を下支えするにせよ、雇用創出効果は小さ い。

 この海外移転を抑えるには、労働規制の強化をやめ、法人税を下げるとともに、円高の行き過ぎに歯止めをかけることが欠かせない。

 円高が加速する局面では、日銀が一段と金融を緩和することも必要になってこよう。米国など海外の理解を得たうえで、円売り・ドル買い介入を実施するとともに、介入で供給した円資金を市場に放置する「非不胎化介入」が必要になる場面があるかもしれない。

 政府・日銀は経済のリスクを先取りし、機動的に動くとの心証を市場参加者に与えるとともに、経営者心理の下振れ防止に努めるべきだ。

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