政府・日銀は円高加速に機動的対応を 2010/8/5付 日経
2010年8月6日金曜日
円高が進んでいる。東京外国為替市場で円は1ドル=85円台と昨年秋以来の高値をつけた。景気の先行きを懸念し、10年物国債の利回りでみた長期金利も1%を下回った。
デフレ下の円高は日本経済に重荷になるばかりか、企業活動を海外に追いやり、国内の雇用を失わせる要因にもなりかねない。政府・日銀は警戒を緩めず、機動的に対応できる態勢を整えておくべきだ。
円は1995年4月につけた最高値である1ドル=79円75銭に迫っているが、実勢はどうか。世界中で販売されている「ビッグマック」の各国での値段を比べて、英誌「エコノミスト」が円・ドル相場の理論値(購買力平価)を試算したところ1ドル=85円台だった。
購買力平価は幅を持ってみる必要があるにせよ、今の円相場は95年の時ほど著しく経済実勢からかけ離れているとはいえない。企業は比較的冷静で、4~6月期決算を発表中の上場企業は90円台だった想定レートを80円台後半に修正しつつある。
とはいえ、現在の水準から一段の円高が進むようだと、日本経済に負の影響を及ぼしかねず、注意が怠れない。消費者物価指数の前年比はなおマイナスだ。そんななかでの円高は、輸入物価の下落を招きデフレからの脱却を一層難しくする。
企業が円高に適応しているといっても、大手製造業を中心に海外生産・海外販売の比重を高めてしのいでいる面が大きい。円がさらに上昇すれば、成長力の低い国内を見捨て海外に走る動きが加速しかねない。
雇用のすそ野の広い製造業による生産の海外移転は、国内の雇用を失わせる要因となる。介護などのサービス業で雇用をつくるといっても、賃金 水準が相対的に下がる可能性が大きいことは覚悟する必要がある。企業の海外拠点からの受取利息や配当は日本経済を下支えするにせよ、雇用創出効果は小さ い。
この海外移転を抑えるには、労働規制の強化をやめ、法人税を下げるとともに、円高の行き過ぎに歯止めをかけることが欠かせない。
円高が加速する局面では、日銀が一段と金融を緩和することも必要になってこよう。米国など海外の理解を得たうえで、円売り・ドル買い介入を実施するとともに、介入で供給した円資金を市場に放置する「非不胎化介入」が必要になる場面があるかもしれない。
政府・日銀は経済のリスクを先取りし、機動的に動くとの心証を市場参加者に与えるとともに、経営者心理の下振れ防止に努めるべきだ。
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