日経社説 大型連休の分散化に知恵を出し合おう(3/7)
2010年3月7日日曜日
政府の観光立国推進本部が全国を5つの地域に分け、日程をずらした大型連休を春と秋に設ける試案をまとめた。渋滞や混雑を緩和し旅行需要を掘り起こすとともに、繁閑の集客の差を縮め、受け入れ側の生産性を高める狙いもある。
実現へ課題は多いが、生活の質の向上と新産業の育成につながるよう各方面で知恵を出し合いたい。
2008年度の国内旅行消費額は23兆円。観光産業の国内総生産(GDP)に占める比率は2.3%と電力・ガス・水道業を合わせた2.2%と並ぶ。人手がいるため雇用創出に貢献し、食材調達などで地方経済に寄与する。他の先進国に比べ成長余地はまだ大きいとみられる。
悩みは週末、年末年始、お盆、5月の連休に客が集中することだ。
観光業界は「休暇が分散すれば、混雑で旅をあきらめていた人も足を運ぶ」「正社員による質の高いサービスも提供しやすくなる」「季節の花や旬の食材など新たな魅力も宣伝できる」などの理由から、休暇の分散化を望んできた。
フランスでは長年かけて有給休暇を増やす、地域で学校の休暇期間をずらすなどの休暇政策を進め、観光産業を育成してきた。地域別休暇では他の欧州諸国にも例がある。
休暇の分散が消費者と業界の双方に利点があるのは間違いない。ただ今回の試案に不安の声も聞かれる。主な理由は2つある。
一つは企業活動への影響だ。本・支社間の連絡、取引先との受発注、決済、納入など地域をまたぐ仕事は多い。手順の変更、ミス防止の努力がいる。効率低下の懸念もある。中小企業からは「結局、休みは取れないのでは」との声も上がる。
もう一つは5月の一斉連休が消えるため帰省や単身赴任者の帰宅、遠方の家族との旅行に差し障る点だ。新制度でレジャー消費が減っては本末転倒だ。「国民の祝日」の意味をどう考えるかという問題も残る。
政府は数年かけて議論した成長戦略である点を丁寧に説明し、産業界の理解と協力を得る必要がある。経済的な得失の試算もほしい。日本経団連は観光を新た な成長産業と位置付け、準備期間などを条件に休暇の分散化に賛成している。有給休暇の取得促進策とうまく組み合わせるといった工夫も考えられる。
休暇分散の推進を前提に地域の線引き、地域以外での分け方、期間設定などに皆で知恵を出せば、もっといい案になるのではないか。今回の試案を「休みは皆で一斉」からの脱皮を探る契機に生かしたい。
0 コメント:
コメントを投稿