グーグルに復活賭けるソニー 日経 2010/5/24付

2010年5月26日水曜日

 ソニーはネット家電や携帯端末の開発で米グーグルと提携すると発表した。インターネット経由で映像を楽しめる次世代テレビを開発し今秋にも発売する。音楽や映像のネット配信で先行する米アップルに対抗する狙いで、地盤沈下が続く日本の家電メーカーの巻き返し策といえる。

 両社の計画では、ソニーがグーグルの基本ソフト(OS)をテレビに採用し、動画配信の「ユーチューブ」など様々なグーグルの情報サービスをテレビで利用できるようにする。ソニーはすでに携帯電話でグーグルのOSを使っており、他の家電分野にも広げる戦略だ。

 ソニーがグーグルと組む背景には映像が見られるアップルの多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」の登場が見逃せない。ソニーは携帯音楽プレーヤーの市場をアップルに奪われた経験から、映像分野ではグーグルと一緒にネット配信基盤の主導権を握ろうとしている。

 グーグルにとってもソニーとの提携は渡りに船だ。アップルは情報配信から端末開発まで自社で行うが、グーグルには製造部門がない。ソニーと組めば、アップルのような垂直統合型の事業を構築しテレビやゲーム市場にも進出できると考えた。

 実は音楽や映像の情報配信基盤はすでに4つのグループに集約されつつある。独自路線を行くアップル、米マイクロソフトと米ヤフー、フィンランドのノキアと米インテル、それにグーグルだ。日本企業は後じんを拝しており、ソニーは提携によりその一角に入ろうとした。

 ソニーは2010年3月期決算で2期ぶりに黒字化したのを受け、かつての「ウォークマン」のように価格競争に左右されにくい、ソニーらしいユニークな商品作りを復活させようとしている。消費者としても期待されるところである。

 ただ、ネット家電に他社のOSを使うことは、パソコンのOSをマイクロソフトに依存するのに似て、危うい面もある。提携によって主導権をグーグルに奪われれば、かえって収益性を損なう恐れもあろう。

 今回の提携は評価できるが、結果はまだ先。人々の生活を変えるような新製品の開発と収益性確保の両立は決してたやすい話ではない。

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新産業発掘は日銀の仕事か 日経 2010/5/23付

 日銀は自ら資金を供給し新産業の発掘や育成に乗り出す。一見、経済成長へ強い援軍の登場のようだが、中立的な立場から物価、景気、金融システムの安定を担う中央銀行の役割を逸脱する心配もつきまとう。

 日銀は資金の流れをゆがめたり、特定の産業や企業を過度に優遇したりしないよう、慎重に対応すべきである。そもそも規制緩和や減税を通じて企業が伸び伸びと経営できる環境を整えるのは政府の仕事のはず。日銀が本業以外の仕事に乗り出さずに済むよう、政府はまっとうな成長戦略を早く固めるべきだ。

 日銀は4月の金融政策決定会合で「日本経済の成長力を取り戻すために、民間金融機関の投融資を資金面から支援する」という方針を決め、具体化を急いできた。

 21日に固めた骨子によると、金融機関から成長基盤強化の取り組みを聞き、日銀がその金融機関に資金を1年間貸し付ける。年0.1%という低金利を適用し、借り換えにも応じる。金融機関は事実上数年間にわたり有利な資金調達が可能になる。

 成長分野について、日銀は環境、エネルギーや技術力の高い企業などを例に挙げるが、白川方明総裁は「政府の成長戦略の議論も参考にする」という。日銀は「自らは融資の目利き能力がないので民間銀行と緊密に意見交換する」としている。

 特定の業種に低利の資金を流せば民間企業の公正な競争をゆがめかねない。成長産業とはみなされない業種でも、企業が革新的な技術を開発して事業拡大を目指すような場合にその芽をつぶしてはならない。

 産業育成に関連した資金供給は基本的には日本政策投資銀行などに任せればよい。日銀が張り切ると、中央銀行の中立性を損ねたり、場合によっては不良債権の発生に手を貸したりする結果ともなりかねない。

 日銀が今、中央銀行として果たすべき役割はデフレを一刻も早く克服し、日本経済を自律的な回復軌道に乗せることだ。そのために政府と足並みをそろえることこそが大切だ。政府は規制緩和や減税などの成長政策、日銀は金融政策を担う。政府は日銀に必要以上の仕事を押しつける結果とならぬよう、内容のある新成長戦略の具体化を急ぐべきだ。

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電気自動車でも主導権を握るためには 日経2010/5/23付

 トヨタ自動車は電気自動車の米ベンチャー企業、テスラ・モーターズに約2%出資し米国で電気自動車の共同開発や生産に乗り出す。

 トヨタがこれまで環境対応車の主軸に位置づけてきたのは、ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせたハイブリッド車だった。

 今回、電気自動車にも力を入れていくと表明したことは、自動車産業がガソリン車から電気自動車の時代に移るきっかけになる可能性がある。二酸化炭素の排出削減を考える上でも影響が大きい。

 トヨタにとっては米国でのイメージ回復という狙いもあったかもしれない。800万台に及ぶリコール(回収・無償修理)問題では社会的評価と業績の両面で打撃を受けた。ゼネラル・モーターズとの合弁工場を閉鎖すると決めた際も世論の風当たりは強かった。テスラとの共同事業ではこの工場の一部を使うという。

 とはいえトヨタがこの時期に電気自動車への本格的な参入を打ち出す意味は大きい。最大の自動車市場となった中国や韓国では電気自動車の心臓部となるリチウムイオン電池の開発などで新興企業が相次ぎ生まれ技術力を高めつつある。

 米国ではオバマ政権が自ら主導し電池技術などを持つ企業への資金支援を打ち出した。インターネットの民生利用に成功した1990年代末と同様、国の技術を有望な事業に転用しようとする動きもある。

 日本も力のある企業が出てきてはいる。だが、電気自動車を次の時代の主軸に位置づけ、実用化を計画している自動車大手は日産自動車など一部に限られる。百年に一度といわれる技術の移行期に出遅れる懸念さえ指摘されていた。

 トヨタが提携するテスラは設立から7年の若い企業だが、その製品は米国で徐々に支持を集めている。自動車生産の規模や実績ではトヨタが上でも、日本の自動車がどうしたら米国市場で再び成功できるか、吸収すべき要素は多い。

 並行して検討すべきは自動車産業の構造転換だ。日本の自動車産業は部品メーカーも合計すると100兆円に達する。「構造が簡単で部品の数も少なく、電機メーカーが部分的には強みを持つ」という電気自動車がもし広く普及するようになれば、今の自動車産業への影響は甚大だ。

 ガソリン車の量産開始から2世紀めに入った自動車産業で、日本企業は今後もトップグループにいられるか。試されるのはそうした大きな問題だ。電気自動車に本格的に手をつけ始めたトヨタへの期待は大きい。

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企業決算 本格回復への道は半ばだ(5月17日付・読売社説)

2010年5月21日金曜日

企業業績はV字回復でどん底を脱した。だが、先行きは不透明で、本格的な回復への道はまだ半ばだろう。

 東証1部上場企業の2010年3月期決算の発表がピークを迎えた。上場企業全体の税引き後利益は、2期ぶりに黒字に転換する見通しだ。

 一昨年秋のリーマン・ショックと世界不況に直撃された昨年3月期決算は、主要企業が巨額赤字に転落し、戦後最悪だった。

 2期連続の赤字を覚悟した企業も多かったが、実際には、黒字に転換したり、赤字を大幅圧縮させたりした企業が相次いだ。

 全体の約3割が、リーマン・ショック前の税引き後利益の水準を回復した。予想以上に早く、各企業が業績悪化に歯止めをかけ、試練を乗り切ったと言えよう。

 最大の原動力は、リストラやコスト削減の徹底だ。売り上げが減っても利益が出せるよう、体質を絞った結果、上場企業全体の売上高は前期比で減少しながら、利益が増える減収増益を実現した。

 業種別では、世界不況からいち早く脱した中国などの新興国市場向けに、輸出を増大させた自動車と電機が牽引(けんいん)役になった。

 自動車やデジタル家電の販売を支援する各国政府の景気刺激策も追い風に生かしたのだろう。

 利益を倍増させたホンダが代表例だ。トヨタ自動車も2期ぶりに黒字を確保し、復活した。前期は巨額赤字の日立製作所も、黒字化が視野に入ってきた。

 一方、小売り、不動産、商社などの非製造業は苦戦し、業績の回復にはばらつきがある。

 資生堂は、アジア市場に活路を求める戦略強化を打ち出した。内需型の企業も、外需をいかに取り込むかが重要だ。

 だが、企業の経営環境はまだまだ厳しい。今期の業績に慎重な企業が多いのも当然だろう。

 世界景気は持ち直してきたが、ギリシャ危機をきっかけに不安が再燃した。欧州経済の低迷が長期化すると、世界全体に波及しかねない。日本にとっても、急激な円高・ユーロ安は、輸出企業の採算を悪化させる。

 各国政府がとった景気刺激策の効果も剥落(はくらく)しつつあり、鉄鉱石などの値上がりも懸念材料だ。

 各社は、業務の「選択と集中」を一層加速し、財務基盤を強化しなければならない。

 リストラ主導では限界がある。新たな成長市場を開拓し、競争力ある製品を生み出すなど、「攻め」の姿勢が肝要である。

2010年5月17日01時27分 読売新聞)

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人材立国ふたたび(最終回)異能や奇才を発掘し、育て、生かそう 日経 2010/5/17付

 アニメなどの日本文化を産業化しようとする試みが盛んだ。独創性や創造力がカギになる。異能の人物や奇才をどう発掘、活用するか。生きた文化が勝負の異能経済では何が花開くか予測できない。才能の自由市場こそが求められる。

 埼玉県久喜市の鷲宮神社に今年、45万人の初詣で客が訪れた。4年前の5倍に増えた理由は、女子高校生の日常を描くテレビアニメ「らき☆すた」。中心となる4人組のうち2人が神主の娘という設定で、モデルになったこの神社も毎回登場する。

自動車ショーに匹敵

 このアニメは「Lucky Star」の題でインターネットを通じ海外にもファンを広げた。ファンが登場人物を描いて神社に奉納した絵馬には、英語や中国語、韓国語の書き込みも珍しくない。

 かつて米国は映像文化を通じて米国のライフスタイルを世界に浸透させた。ホームドラマを見た日本人は大型冷蔵庫やマイカーにあこがれ、青春映画を通じコカ・コーラやジーンズにしびれた。ジャズやロックにもなじみ、ニューヨークやロサンゼルスをいつか観光したいと願った。

 いま日本のアニメや漫画は、当時の米国映画と同じ位置にある。パリで毎夏開かれる漫画やアニメの見本市「ジャパンエキスポ」に、昨年は16万人が集まった。米国やアジアでも同じような催しが人を集める。

 アニメ人気はファッションにも波及し始めた。作品に登場する服を扱うネットの通信販売では、1~2割が海外からの注文という店もある。キャラクター商品の代表「ハローキティ」をあしらった雑貨もアジアや欧州の女性たちが愛用する。

 文化の競争力を支えるのは人材だ。若者が才能を発揮できる場が欠かせない。同人誌や自作模型の即売会は日本各地で盛り上がり、海外からの参加者も多い。出版社や雑貨会社もここで人材を探す。ある漫画同人誌の即売会は56万人を集め、東京モーターショーの62万人に迫る。

 自由と創造性が成長につながるのは、出版やファッションなど一部の文化系産業だけではない。

  米国の都市経済学者リチャード・フロリダ氏は「国や企業の競争力の源泉は人々の創造性だ」と分析する。映像・デザインから商品開発、科学、金融まで、創造 性にあふれる人を世界中から集めた米国。従業員が「カイゼン活動」を通じ、最大限の創造性を発揮したかつてのトヨタ自動車。これらはその好例という。

 今の日本企業は手元の「才」を十分に生かしているだろうか。

  iPodなどのヒット商品を生んだ米アップルはデザインを競争力の柱に据える。少数精鋭のデザイン部門に勤める西堀晋氏は、かつて松下電器産業(現パナソ ニック)の社員だった。独創的なラジカセなどを世に出したが、1998年に退職。京都でカフェを経営しつつ個性的な音響機器や生活雑貨を作る中でアップル にスカウトされ、渡米した。

  日本人デザイナーが日本企業から安い料金で受注しようと上海にデザイン事務所を構えたら、実際には「高額を払っても日本人による質の高いデザインを求めた い」という中国企業からの注文が増えた。デザイン部門を日本の大手企業が縮小する一方で、韓国のサムスン電子などは強化している――デザイン産業の動向に 詳しい紺野登・多摩大学大学院教授は、こう警鐘を鳴らす。

成長の種を捨てるな

 創造性を生かした成功例はもちろんある。昔風の外観で当たった日産自動車の「キューブ」。開発では、女性担当者が技術者を連れ、原宿の若者を見せて回った。「速い」車を作りたい技術者に、最近の若い男性の「のんびり」志向を服やふるまいから感じ取ってもらったのだ。

  資生堂の化粧品「マジョリカマジョルカ」は10代後半から20歳前後の女性に支持された。魔法や魔女を主題に、中世の紋章のような模様をつけ、名は呪文 (じゅもん)風。透明感と高級感を訴える通常の化粧品の売り方とは逆だ。幻想小説に通じる印象は20代の女性社員が中心となってつくった。

  書店チェーンのヴィレッジヴァンガードコーポレーションは、若い店員に本と雑貨を組み合わせた売り場を自由奔放に作らせる。飲食店経営のダイヤモンドダイ ニングは、店長予定者らのひらめきをもとに店名や料理を決めている。若者の本離れや外食業不振の中で、両社とも増収増益を続けている。

 単発的なヒットや新進企業の取り組みをどう広げるか。長期停滞といわれる時代に、内外でかえって日本人の創造性に関心が高まった。せっかくの好機を生かす企業の知恵が問われる。

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みずほの「次の10年」の行方  日経2010/5/16付

 総合金融大手のみずほフィナンシャルグループが、普通株による8000億円の増資を発表した。経営の改革案やグループの3会長の退任も公表することにより、みずほの変わる姿勢を示そうとした。変身できるかどうかは資本の充実だけでなく、グループの融合にかかっている。

 増資の背景には、銀行の自己資本比率に関する新規制がある。バーゼル銀行監督委員会は、融資などのリスク資産に対して、配当を機動的に減らせる普通株や利益蓄積などで構成する「狭義の自己資本」を、厚く積むよう求める方向だ。

 リーマン・ショック以降、三菱UFJと三井住友の2グループは2回の普通株増資に踏み切った。みずほは09年7月に次いで今回が2度目。自己資本が厚くなれば、資本規制が強化されても、企業に成長資金を供給する機能を保つことができる。

 株式市場が不安定な中で円滑に増資を進めるには、中期的な成長の見取り図の提示が欠かせない。改革案は3年間で連結最終利益を2倍に増やす計画を打ち出した。目標を達成するには、収益の見込める分野に機動的に打って出られるよう、グループ経営の無駄をなくす必要がある。

 持ち株会社の前田晃伸会長、みずほコーポレート銀行の斎藤宏会長、みずほ銀行の杉山清次会長が退任する。それぞれ旧富士銀行、旧日本興業銀行、旧第一勧業銀行の出身だ。旧3行の実力者が長く経営にとどまっては、融合も進めにくい。

 3会長の退任は、経営の効率を高めるきっかけになりうる。管理部門やIT(情報技術)システムなど目に見えにくい部分だけでなく、傘下の2つの銀行の統合を検討する時も近づいているのではないか。

  旧3行が今の持ち株会社の前身「みずほホールディングス」を設立したのは、10年前だった。世界有数の規模を誇る金融グループの誕生は、個人から大企業ま で幅広い金融サービスを提供し、経済の活性化につながると期待された。03年に多くの取引先が総額約1兆円の増資に応じたのも、そうした気持ちの表れだ。

 旧3行の個別の利害を超えた経営の実現は、当時から指摘された課題だ。みずほが次の10年に踏み出す今も、まったく同じことが言える。

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光回線の利用拡大へ規制や料金を見直せ 日経 2010/5/16付

 鳩山政権の情報通信政策が動き出した。IT(情報技術)戦略本部が国民番号制度などを軸とする新戦略を策定し、総務省も光回線を全世帯に広める「光の道」構想の具体案をまとめた。情報通信分野は日本の経済成長を促す要の一つであり、着実に成果をあげる必要がある。

 IT本部の新戦略は、電子政府を広め、環境やエネルギー分野などに情報技術を活用する方針を掲げた。年金など自分の情報を個人が管理できる番号制度を導入し、2013年までに国民の半数以上がコンビニや郵便局などの行政端末で様々な電子手続きができるようにする。

 総務省が掲げる「光の道」では、15年までに光回線などの高速ネット環境を全世帯に普及させ、医療や教育分野などへの利用を促す。山間部など商用サービスが難しい地域には公的な資金も投入する考えだ。

 だが、高速ネットの利用を増やすには、インフラ整備に加え、それを使った新しいサービスをつくり出す必要がある。すでに全世帯の9割が光回線を利用できるのに、契約者が3割にとどまっているのは、動画を見る以外に高速ネットを必要とするサービスが見あたらないからだ。

 光回線を使えば、遠く離れた場所を結んだ医療や教育、在宅勤務などができるようになる。ところが、法律で対面の手続きを義務づけているなど規制が多く、光回線の活用が遅れている。もっと使えるようにするために、法改正も含めた規制緩和を並行して進める必要がある。

 通信料の引き下げも重要だ。光回線の利用世帯は1700万を超えたが、ADSLも1千万世帯ある。ADSLは送り手側の速度が遅く、医療や教育など双方向でたくさんの情報を送るには適さない。ADSLから光への転換を進めるには、料金の大幅な引き下げが不可欠だろう。

 総務省は光回線の料金を下げるため、基幹通信網から家庭までの接続網をNTTから切り離す案も検討した。結論は1年先送りとなったため、NTTには光回線の敷設・運営コストを開示させ、経営改善による料金引き下げを求めるべきだ。

 すべての世帯が高速ネットを利用できるようにするには、高速無線技術などの手段も重要だ。電話はNTTに全国一律のサービスを義務づけており、不採算地域のコストは基金を通じ通信事業者全体で負担している。高速ネットに同様な措置を導入することも、一案だろう。

 日本が得意とする光通信の分野で世界を先導するには、利用をもっと促す知恵と方策が要る。

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43歳に明日を託した英国  日経2010/5/15付

 英国の総選挙を受けて誕生したキャメロン新政権が、沈滞していた同国の空気を変えつつある。国内では政権発足の翌日に、中央銀行総裁から歳出削減への支持を取りつけ、米英外相会談でイランの核問題を協議することも決めた。

  英国民が選択したのは政治指導者の「若さ」である。第1党となった保守党のキャメロン党首と、副首相に就任した自由民主党のクレッグ党首は、ともに43 歳。敗れた労働党のブラウン前首相は59歳だ。各党の政策の違い以上に、指導者の新鮮さが勝敗を左右したとみるべきだろう。

 キャメロン氏は、就任時に44歳直前だったブレア元首相を抜き、19世紀初頭のジェンキンソン首相以降で最も若い英国の首相となる。

 新閣僚の顔ぶれも若い。38歳のオズボーン財務相を筆頭に、ヘイグ外相が49歳、フォックス国防相は48歳である。経験が必要な分野にベテランを配しながら、政権の中核は30~40代が担っている。

 新政権に課題と不安が多いのは事実だ。財政赤字を減らす具体的な方策では、保守党と自民党の意見調整は簡単ではない。選挙制度改革をめぐる対立点も残っている。欧州連合(EU)との関係についても、両党の基本的な立場に隔たりがある。

 同床異夢の連立政権を運営していくには、さまざまな困難が伴うだろう。だが、今回の政治の世代交代によって、金融危機後に閉塞(へいそく)感が漂っていた英国社会に明るい変化が出ることが期待できる。

 国民が政治の刷新を求めたのは、日本も同じである。しかし、若返りを果たした英国とは対照的に、昨年9月に発足した当初の鳩山内閣の閣僚平均年齢は60歳を超えていた。

 次世代の活躍を待望する声が多くても、安心して政治を委ねられる若手が見あたらない。常に新しい指導者を育てながら、必要な局面での世代交代に備える。そんな新陳代謝の仕組みが、日本の政界に欠けているのではないか。

 若さは時に経験不足を意味する。だが、過去のしがらみや成功体験にとらわれないからこそ、時代が要請する改革を実行できる場合もある。政党政治の歴史を築いてきた英国から、日本が学ぶべき点は多い。

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読売経済提言 政策を一新し停滞を打開せよ(5月7日付・読売社説)

2010年5月8日土曜日

 経済効果の少ないばらまきで財政を悪化させ、成長回復に向けた確かな処方せんもない。鳩山政権による経済運営の無策ぶりは、もはや看過することができない――。

 経済政策を大転換するよう求めた読売新聞の緊急提言は、こうした問題意識に基づいている。

 選挙の勝利を優先する大衆迎合政治と、マニフェスト(政権公約)至上主義が、鳩山政治の最大の問題といえよう。

 21世紀を通じて日本の経済社会を安定させ、持続的な成長が可能となるよう、鳩山首相は本社提言に沿った責任ある経済政策を実施すべきである。


 ◆公約が政治をゆがめる


 日本経済は、世界同時不況の荒波を乗り切り、ようやく景気が持ち直してきた。だが、つかの間の明るさに安心してはならない。

 マクロ経済全体で需要は30兆円足りない。物価に下落圧力がかかり、デフレが慢性化している。

 エコカー減税など、前政権が残した景気対策もそろそろ息切れして、今年半ば以降には成長が減速するとの見方も強い。

 今こそ、景気下支えに万全を期さねばならないのに、肝心の経済政策は的はずれだ。公共事業を罪悪視した「コンクリートから人へ」は、その典型といえる。

 今年度予算で景気刺激効果の高い公共事業を2割も削った。公共事業を頼みとする地方経済への打撃は大きいだろう。

 反面、子ども手当など、ばらまき型給付に巨額の予算を割いた。家計への直接給付は貯蓄に回り、景気浮揚の即効性は期待しにくいのに、恒久的な財源のあてもないまま、公約実現を優先させた。

 交通網の高度化や学校の耐震化など、インフラ(社会基盤)投資は成長や生活の安全・安心につながる。無駄なハコ物と同一視せず、整備を進める必要がある。

 そのための財源確保の一策として、無利子非課税国債の活用はどうか。相続税を減免するものの利払い負担がないため、財政を悪化させることもない。約30兆円とされるタンス預金を吸い上げて必要な事業に使えば、一石二鳥の効果が期待できよう。


 ◆安心は雇用の安定から


 国民の最大の不満は「経済的なゆとりと先行きの見通しがない」ことだという。内閣府の世論調査で、ほぼ半数がそう答えた。

 手当をばらまくだけでは、不安は解消しない。働きたい人に仕事を用意し、自ら生計を立てられるようにすることが、安心の第一歩だ。雇用が安定すれば、消費拡大など経済活性化にもつながる。

 高齢化でニーズの高まる医療・介護分野は、雇用拡大の面でも有望だ。しかし、仕事がきついうえに、給料が安すぎるとして、現場を去る人が多く、慢性的な人手不足に陥っている。

 魅力のある仕事にするため、処遇改善が求められる。公費による支援の拡充などを図るべきだ。

 病気や高齢で働けない人を支える社会保障制度の強化も急がねばならない。制度の青写真をきれいに描いても、裏付けの財源がなければ絵に描いたモチだ。

 少子高齢化のため、黙っていても社会保障費は毎年1兆円ずつ増える。これを賄い、持続可能な制度に改めるには、税収の安定している消費税率の引き上げは避けられない。

 鳩山首相は「消費税率凍結」を撤回し、早急に具体的な論議を開始すべきだ。税率は現在の5%から、まずは10%への引き上げを目指す必要がある。


 ◆新興市場でどう稼ぐ


 日本の国際競争力や、1人あたりの国内総生産(GDP)は、1990年代前半には世界のトップクラスだった。しかし、今はともに20位前後に沈んでしまった。

 高齢化と人口減少で、今後ますます経済規模の縮小が進む恐れもある。衰退を防ぐには、まず外需でしっかり稼がねばならない。

 狙うべきは新興国で拡大する新たな中間所得層や、鉄道や発電などのインフラ整備だろう。

 昨年末、中東・アラブ首長国連邦(UAE)の原子力発電所建設をめぐる受注競争で、政府の全面支援を受けた韓国企業に日本勢が敗れた。官民が協力して新興国市場を攻略する新たな通商戦略を練らねばならない。

 中国をはじめとした新興国企業の台頭は著しく、日本企業の勝ち残りは容易ではない。現に、先行していたはずの薄型テレビで、韓国メーカーにシェア(市場占有率)を奪われている。

 海外よりも高い約40%の法人税の実効税率が企業の活力を奪っている。欧州や中韓なみの30~25%を目安に、引き下げるべきだ。

 省エネや環境など日本が得意とし、成長が期待できる分野の活性化が重要だ。投資・研究減税などで企業の努力を後押ししたい。

(2010年5月7日03時00分 読売新聞)

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欧州発の不信の連鎖を日本も直視せよ 2010/5/7 日経

 危機を抑えようと急いで決めた支援策が、皮肉にも欧州の不安を広げる誘い水となってしまった。

 欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)は資金繰りに窮したギリシャ政府への緊急の協調融資に合意した。2012年まで3年間の規模は1100億ユーロと日本円で13兆円を超す。1997年のアジア通貨危機以来の政府向け巨額支援だ。

 2日の支援発表後も世界市場は混迷を深めている。欧州に加えて米国やアジアの株価が軒並み下げ、連休明け6日の東京市場も日経平均株価の終値が先月30日に比べて361円安と今年最大の下げ幅になった。

 ギリシャが国債発行などで必要とする額に支援規模が足りず、実施の条件となる財政赤字削減も達成できないのではないか。市場はギリシャ支援にそんな疑いを強めている。

 首都アテネでは間接税の増税や公務員給与の削減に反対する市民のデモで死者も出た。急激な緊縮財政策は政治的な困難を伴い、当面の実体経済にもマイナスだ。支援策の実現はいばらの道である。

 助ける側の問題もある。多くの負担をかぶるドイツでは安易なギリシャ支援に世論の反発が強い。9日の州議会選を控えたメルケル政権の対応の鈍さも悪材料となった。

 「ギリシャの次」を探す市場の動きも止まらない。財政赤字のポルトガルやスペインでは国債利回りの上昇に加え、不動産バブルの崩壊による不良債権の損失が増え、独仏など欧州の大手金融機関の業績に響くとの見方も強まっている。

 単一の通貨で共通の金融政策を当てはめるが、予算や財政は各国の裁量任せ。そんなユーロ体制の危機を市場参加者は見抜きつつある。不信の連鎖をどう止めるのか、決め手はなかなか見当たらない。

 金融危機から立ち直り始めた世界経済を損ねないよう、欧州には大胆な対応が望まれる。

 欧州中央銀行(ECB)は「投機的」の水準に格付けが落ちたギリシャの国債を引き続き担保として資金供給すると決めた。個別国の特別扱いを認める路線転換だ。6日の理事会では国債買い入れなどの追加措置は議論しなかったが、危機の拡大阻止に全力を挙げねばならない。

 国内総生産(GDP)の1.8倍もの長期債務を抱える日本も、欧州の危機を直視すべきだ。豊富な個人金融資産のおかげで国債が円滑に消化できているが、市場発の財政不安は突然やってくる。ギリシャなどの混乱を反面教師に、財政健全化の道筋づくりを急ぐべきだ。

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引きこもり―SOSを見逃さぬために(5/7 朝日)

 愛知県豊川市で先月、10年以上自宅に引きこもっていた30歳の男が、家族5人を殺傷し、逮捕された。

 ネット通販の支払いが200万円を超え、困った家族がネット契約を切ったため、「腹が立った」という。

 そんなことで1歳のめいにまで手をかけたとは。男は中学時代、「おとなしい人だった」という。長い内向きの暮らしで、心はどう変わってしまったのか。暗然たる思いがする。

 引きこもりは、全国で30万人とも100万人ともいわれる。受験や就職などにつまずき、対人関係に自信を失ったのが、多くのきっかけというが、なかなか表面化しない。3月にも大阪市で男が父親を殺す事件が起きている。

 もちろん暴力的な事件に至ることはまれだ。大半は、いつ終わるのか分からないトンネルの中で、当事者も家族も耐えている、というのが実態だ。

 打開のチャンスは、経験を積んだ第三者がかかわり、閉じた空間を変えていくことだ。最近は各県の精神保健福祉センターに担当者が置かれ、NGOが居場所をつくり、親の会が次々につくられている。厚生労働省も近く対応ガイドラインを更新し、初期の段階で精神科医のかかわりを強める対応などの検討もすすめている。

 たとえば豊川市の事件の場合、警察の対応に何かが足りなかったとすれば、そうしたネットワークとの連携ではないだろうか。家族からネット通販の問題で相談を受け、警察官は自宅まで訪ねているし、通販対策として消費生活相談の窓口を紹介もしている。

 ただ、問題の根にある引きこもり対策までには踏み込まず、専門家につなぐことはなかった。結果として、本人にとって唯一の社会との接点にもなっていたネット自体を切ることを家族に提案した。

 専門家ならどうしたか。京都市で引きこもりの若者らの居場所を運営する山田孝明さんは、「ネットまで切らず、銀行口座の残額をゼロにして通販をできなくする方法を提案した」と話す。傷つきやすい本人にも配慮しながら、家族を守り、少しずつ環境を変える方法を一緒に考えていく、という。緊急避難として家族が家を出て暮らすのも手だったそうだ。

 若者の問題と思われがちだが、全国親の会の会員調査によると、引きこもりは長期化し、平均年齢が30歳を超えている。親も退職年齢にさしかかっており、今後、精神面のケアとともに経済的な支援、さらには仕事のあっせんも考えなければいけない。

 DV(配偶者、恋人などからの暴力)や児童虐待と同様、問題を抱えた多くの家族、当事者は孤立している。手をさしのべる側は関係者や組織がしっかりとしたつながりを築き、かすかなSOSも見逃さないようにしたい。


5/7 朝日

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NPO税制―誰もが支えられる工夫を(5/6 朝日)

鳩山由紀夫首相が力を入れる「新しい公共」作りに向け、特定非営利活動法人(NPO法人)の税制見直しが決まった。NPOを力強く発展させ、市民社会を充実させるテコとなるよう、中身を工夫したい。

 見直しの柱は、個人の寄付を増やすための優遇措置の拡充や、対象となるNPO法人の認定基準の緩和だ。年末の税制改革大綱に盛り込むため、これから具体的内容を詰める。

 寄付の優遇は従来、寄付額を課税対象となる所得から差し引く所得控除だけで、高所得層にしか恩恵が及ばないと批判されてきた。

 今後は新たに寄付額の一部を納税額から差し引く税額控除も選べるようにする。首相は、寄付額の半分を控除し、控除額の上限を所得の4分の1とする考えを示した。政党や政治団体への寄付が30%税額控除なので、それより優遇するとの判断だ。

 市民の活動を納税者が直接支える流れを太くする意味でも、この措置を歓迎したい。ただ、サラリーマンには控除を受けるのに確定申告が必要なことも壁になっている。年末調整で済むようにするべきだ。

 優遇策はすべてのNPO法人が受けられるわけではない。国税庁が一定の基準で「公益性」を認めた認定NPO法人だけが享受できる。だが、全国でNPO法人が約4万あるのに認定NPO法人は127しかない。そこで今回、認定要件の緩和も打ち出された。

 これまでの基準は事業などの収入総額のうち、3分の1以上を寄付が占めるよう求めている。だが、事業収入が多いと基準が達成しにくくなるジレンマがあったり、費目の分類が複雑で実際には税理士の支援が必要だったり、と問題が多い。

 今回、「一定額以上の個人寄付が一定の数だけあればいい」との基準も作り、併用する方向になった。

 だが、甘くし過ぎると脱税の隠れみのに悪用される懸念もある。制度づくりで注意すべき点だ。

 大事なのは、一般の人々から見て「寄付に値する信用の置けるNPO法人」を増やすことだ。その点で、NPO法人側にも反省すべき点は多い。

 活動の実態や財務内容、人事の理由などを対外的にきちんと説明しない例も少なくない。

 日本で寄付をしている人の数は米国に比べ見劣りはしないが、金額が小さい。NPO法人の中身が不透明なので、思い切った応援を決めかねている面もあるようだ。

 NPO法人を支える制度作りは政府だけの仕事ではない。NPO法人有志により統一の会計基準や経営原則のチェックリストを作る動きが進んでいる。NPO法人の自立と質の向上を促すために力を合わせてほしい。

5/6 朝日

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地球温暖化 科学的な根拠の検証が急務だ(5月4日付・読売社説)

 地球温暖化の科学的な信頼性が揺らぐ中、日本の科学者を代表する日本学術会議が初めて、この問題を公開の場で論議する会合を開いた。

 だが、会合では、専門家がそれぞれ自説を述べるだけで学術会議の見解は示されなかった。このまま終わらせてはならない。

 取り上げられたのは、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が過去4回にわたってまとめてきた温暖化問題に関する科学報告書だ。次々に、根拠の怪しい記述が見つかっている。

 報告書の作成には、日本人研究者も多数関与している。

 しかも、この報告書は、日本をはじめ各国の温暖化対策の論拠にもなっている。学術会議自身、これをもとに、早急な温暖化対策を求める提言をしてきた。

 どうして、根拠なき記述が盛り込まれたのか。国連も、国際的な科学者団体であるインターアカデミーカウンシル(IAC)に、IPCCの報告書作成の問題点を検証するよう依頼している。

 国際的に多くの疑問が指摘されている以上、科学者集団として日本学術会議は、問題点を洗い直す検証作業が急務だろう。

 IPCCは3~4年後に新たな報告書をまとめる予定だ。学術会議は、報告書の信頼性を向上させるためにも、検証結果を積極的に提言していくべきだ。

 現在の報告書に対し出ている疑問の多くは、温暖化による影響の評価に関する記述だ。

 「ヒマラヤの氷河が2035年に消失する」「アフリカの穀物収穫が2020年に半減する」といった危機感をあおる内容で、対策の緊急性を訴えるため、各所で引用され、紹介されてきた。

 しかし、環境団体の文書を参考にするなど、IPCCが報告書作成の際の基準としていた、科学的な審査を経た論文に基づくものではなかった。

 欧米では問題が表面化して温暖化の科学予測に不信が広がり、対策を巡る議論も停滞している。

 日本も、鳩山政権が温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減する目標を掲げているが、ただでさえ厳しすぎると言われている。不満が一層広がりはしないか。

 欧米では、危機感を煽るのではなく、率直に論議する動きが出ている。この10年、温室効果ガスは増える一方なのに気温は上がっていない矛盾を、温暖化問題で主導的な英国の研究者が公的に認めたのはその例だ。参考にしたい。

(2010年5月4日01時18分 読売新聞)

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