欧州発の不信の連鎖を日本も直視せよ 2010/5/7 日経
2010年5月8日土曜日
危機を抑えようと急いで決めた支援策が、皮肉にも欧州の不安を広げる誘い水となってしまった。 欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)は資金繰りに窮したギリシャ政府への緊急の協調融資に合意した。2012年まで3年間の規模は1100億ユーロと日本円で13兆円を超す。1997年のアジア通貨危機以来の政府向け巨額支援だ。 2日の支援発表後も世界市場は混迷を深めている。欧州に加えて米国やアジアの株価が軒並み下げ、連休明け6日の東京市場も日経平均株価の終値が先月30日に比べて361円安と今年最大の下げ幅になった。 ギリシャが国債発行などで必要とする額に支援規模が足りず、実施の条件となる財政赤字削減も達成できないのではないか。市場はギリシャ支援にそんな疑いを強めている。 首都アテネでは間接税の増税や公務員給与の削減に反対する市民のデモで死者も出た。急激な緊縮財政策は政治的な困難を伴い、当面の実体経済にもマイナスだ。支援策の実現はいばらの道である。 助ける側の問題もある。多くの負担をかぶるドイツでは安易なギリシャ支援に世論の反発が強い。9日の州議会選を控えたメルケル政権の対応の鈍さも悪材料となった。 「ギリシャの次」を探す市場の動きも止まらない。財政赤字のポルトガルやスペインでは国債利回りの上昇に加え、不動産バブルの崩壊による不良債権の損失が増え、独仏など欧州の大手金融機関の業績に響くとの見方も強まっている。 単一の通貨で共通の金融政策を当てはめるが、予算や財政は各国の裁量任せ。そんなユーロ体制の危機を市場参加者は見抜きつつある。不信の連鎖をどう止めるのか、決め手はなかなか見当たらない。 金融危機から立ち直り始めた世界経済を損ねないよう、欧州には大胆な対応が望まれる。 欧州中央銀行(ECB)は「投機的」の水準に格付けが落ちたギリシャの国債を引き続き担保として資金供給すると決めた。個別国の特別扱いを認める路線転換だ。6日の理事会では国債買い入れなどの追加措置は議論しなかったが、危機の拡大阻止に全力を挙げねばならない。 国内総生産(GDP)の1.8倍もの長期債務を抱える日本も、欧州の危機を直視すべきだ。豊富な個人金融資産のおかげで国債が円滑に消化できているが、市場発の財政不安は突然やってくる。ギリシャなどの混乱を反面教師に、財政健全化の道筋づくりを急ぐべきだ。
0 コメント:
コメントを投稿