人材立国ふたたび(最終回)異能や奇才を発掘し、育て、生かそう 日経 2010/5/17付

2010年5月21日金曜日

 アニメなどの日本文化を産業化しようとする試みが盛んだ。独創性や創造力がカギになる。異能の人物や奇才をどう発掘、活用するか。生きた文化が勝負の異能経済では何が花開くか予測できない。才能の自由市場こそが求められる。

 埼玉県久喜市の鷲宮神社に今年、45万人の初詣で客が訪れた。4年前の5倍に増えた理由は、女子高校生の日常を描くテレビアニメ「らき☆すた」。中心となる4人組のうち2人が神主の娘という設定で、モデルになったこの神社も毎回登場する。

自動車ショーに匹敵

 このアニメは「Lucky Star」の題でインターネットを通じ海外にもファンを広げた。ファンが登場人物を描いて神社に奉納した絵馬には、英語や中国語、韓国語の書き込みも珍しくない。

 かつて米国は映像文化を通じて米国のライフスタイルを世界に浸透させた。ホームドラマを見た日本人は大型冷蔵庫やマイカーにあこがれ、青春映画を通じコカ・コーラやジーンズにしびれた。ジャズやロックにもなじみ、ニューヨークやロサンゼルスをいつか観光したいと願った。

 いま日本のアニメや漫画は、当時の米国映画と同じ位置にある。パリで毎夏開かれる漫画やアニメの見本市「ジャパンエキスポ」に、昨年は16万人が集まった。米国やアジアでも同じような催しが人を集める。

 アニメ人気はファッションにも波及し始めた。作品に登場する服を扱うネットの通信販売では、1~2割が海外からの注文という店もある。キャラクター商品の代表「ハローキティ」をあしらった雑貨もアジアや欧州の女性たちが愛用する。

 文化の競争力を支えるのは人材だ。若者が才能を発揮できる場が欠かせない。同人誌や自作模型の即売会は日本各地で盛り上がり、海外からの参加者も多い。出版社や雑貨会社もここで人材を探す。ある漫画同人誌の即売会は56万人を集め、東京モーターショーの62万人に迫る。

 自由と創造性が成長につながるのは、出版やファッションなど一部の文化系産業だけではない。

  米国の都市経済学者リチャード・フロリダ氏は「国や企業の競争力の源泉は人々の創造性だ」と分析する。映像・デザインから商品開発、科学、金融まで、創造 性にあふれる人を世界中から集めた米国。従業員が「カイゼン活動」を通じ、最大限の創造性を発揮したかつてのトヨタ自動車。これらはその好例という。

 今の日本企業は手元の「才」を十分に生かしているだろうか。

  iPodなどのヒット商品を生んだ米アップルはデザインを競争力の柱に据える。少数精鋭のデザイン部門に勤める西堀晋氏は、かつて松下電器産業(現パナソ ニック)の社員だった。独創的なラジカセなどを世に出したが、1998年に退職。京都でカフェを経営しつつ個性的な音響機器や生活雑貨を作る中でアップル にスカウトされ、渡米した。

  日本人デザイナーが日本企業から安い料金で受注しようと上海にデザイン事務所を構えたら、実際には「高額を払っても日本人による質の高いデザインを求めた い」という中国企業からの注文が増えた。デザイン部門を日本の大手企業が縮小する一方で、韓国のサムスン電子などは強化している――デザイン産業の動向に 詳しい紺野登・多摩大学大学院教授は、こう警鐘を鳴らす。

成長の種を捨てるな

 創造性を生かした成功例はもちろんある。昔風の外観で当たった日産自動車の「キューブ」。開発では、女性担当者が技術者を連れ、原宿の若者を見せて回った。「速い」車を作りたい技術者に、最近の若い男性の「のんびり」志向を服やふるまいから感じ取ってもらったのだ。

  資生堂の化粧品「マジョリカマジョルカ」は10代後半から20歳前後の女性に支持された。魔法や魔女を主題に、中世の紋章のような模様をつけ、名は呪文 (じゅもん)風。透明感と高級感を訴える通常の化粧品の売り方とは逆だ。幻想小説に通じる印象は20代の女性社員が中心となってつくった。

  書店チェーンのヴィレッジヴァンガードコーポレーションは、若い店員に本と雑貨を組み合わせた売り場を自由奔放に作らせる。飲食店経営のダイヤモンドダイ ニングは、店長予定者らのひらめきをもとに店名や料理を決めている。若者の本離れや外食業不振の中で、両社とも増収増益を続けている。

 単発的なヒットや新進企業の取り組みをどう広げるか。長期停滞といわれる時代に、内外でかえって日本人の創造性に関心が高まった。せっかくの好機を生かす企業の知恵が問われる。

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