引きこもり―SOSを見逃さぬために(5/7 朝日)

2010年5月8日土曜日

 愛知県豊川市で先月、10年以上自宅に引きこもっていた30歳の男が、家族5人を殺傷し、逮捕された。

 ネット通販の支払いが200万円を超え、困った家族がネット契約を切ったため、「腹が立った」という。

 そんなことで1歳のめいにまで手をかけたとは。男は中学時代、「おとなしい人だった」という。長い内向きの暮らしで、心はどう変わってしまったのか。暗然たる思いがする。

 引きこもりは、全国で30万人とも100万人ともいわれる。受験や就職などにつまずき、対人関係に自信を失ったのが、多くのきっかけというが、なかなか表面化しない。3月にも大阪市で男が父親を殺す事件が起きている。

 もちろん暴力的な事件に至ることはまれだ。大半は、いつ終わるのか分からないトンネルの中で、当事者も家族も耐えている、というのが実態だ。

 打開のチャンスは、経験を積んだ第三者がかかわり、閉じた空間を変えていくことだ。最近は各県の精神保健福祉センターに担当者が置かれ、NGOが居場所をつくり、親の会が次々につくられている。厚生労働省も近く対応ガイドラインを更新し、初期の段階で精神科医のかかわりを強める対応などの検討もすすめている。

 たとえば豊川市の事件の場合、警察の対応に何かが足りなかったとすれば、そうしたネットワークとの連携ではないだろうか。家族からネット通販の問題で相談を受け、警察官は自宅まで訪ねているし、通販対策として消費生活相談の窓口を紹介もしている。

 ただ、問題の根にある引きこもり対策までには踏み込まず、専門家につなぐことはなかった。結果として、本人にとって唯一の社会との接点にもなっていたネット自体を切ることを家族に提案した。

 専門家ならどうしたか。京都市で引きこもりの若者らの居場所を運営する山田孝明さんは、「ネットまで切らず、銀行口座の残額をゼロにして通販をできなくする方法を提案した」と話す。傷つきやすい本人にも配慮しながら、家族を守り、少しずつ環境を変える方法を一緒に考えていく、という。緊急避難として家族が家を出て暮らすのも手だったそうだ。

 若者の問題と思われがちだが、全国親の会の会員調査によると、引きこもりは長期化し、平均年齢が30歳を超えている。親も退職年齢にさしかかっており、今後、精神面のケアとともに経済的な支援、さらには仕事のあっせんも考えなければいけない。

 DV(配偶者、恋人などからの暴力)や児童虐待と同様、問題を抱えた多くの家族、当事者は孤立している。手をさしのべる側は関係者や組織がしっかりとしたつながりを築き、かすかなSOSも見逃さないようにしたい。


5/7 朝日

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