新産業発掘は日銀の仕事か 日経 2010/5/23付
2010年5月26日水曜日
日銀は自ら資金を供給し新産業の発掘や育成に乗り出す。一見、経済成長へ強い援軍の登場のようだが、中立的な立場から物価、景気、金融システムの安定を担う中央銀行の役割を逸脱する心配もつきまとう。
日銀は資金の流れをゆがめたり、特定の産業や企業を過度に優遇したりしないよう、慎重に対応すべきである。そもそも規制緩和や減税を通じて企業が伸び伸びと経営できる環境を整えるのは政府の仕事のはず。日銀が本業以外の仕事に乗り出さずに済むよう、政府はまっとうな成長戦略を早く固めるべきだ。
日銀は4月の金融政策決定会合で「日本経済の成長力を取り戻すために、民間金融機関の投融資を資金面から支援する」という方針を決め、具体化を急いできた。
21日に固めた骨子によると、金融機関から成長基盤強化の取り組みを聞き、日銀がその金融機関に資金を1年間貸し付ける。年0.1%という低金利を適用し、借り換えにも応じる。金融機関は事実上数年間にわたり有利な資金調達が可能になる。
成長分野について、日銀は環境、エネルギーや技術力の高い企業などを例に挙げるが、白川方明総裁は「政府の成長戦略の議論も参考にする」という。日銀は「自らは融資の目利き能力がないので民間銀行と緊密に意見交換する」としている。
特定の業種に低利の資金を流せば民間企業の公正な競争をゆがめかねない。成長産業とはみなされない業種でも、企業が革新的な技術を開発して事業拡大を目指すような場合にその芽をつぶしてはならない。
産業育成に関連した資金供給は基本的には日本政策投資銀行などに任せればよい。日銀が張り切ると、中央銀行の中立性を損ねたり、場合によっては不良債権の発生に手を貸したりする結果ともなりかねない。
日銀が今、中央銀行として果たすべき役割はデフレを一刻も早く克服し、日本経済を自律的な回復軌道に乗せることだ。そのために政府と足並みをそろえることこそが大切だ。政府は規制緩和や減税などの成長政策、日銀は金融政策を担う。政府は日銀に必要以上の仕事を押しつける結果とならぬよう、内容のある新成長戦略の具体化を急ぐべきだ。
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