FRBの追加緩和が日本に迫る覚悟 2010/11/5付 日経

2010年11月5日金曜日

 米連邦準備理事会(FRB)が本気になってデフレ対策に乗り出した。長期にわたりゼロ金利政策を続けるとともに、市場に大量の資金を供給 する金融の量的緩和に踏み切った。中間選挙でオバマ政権が大敗し、経済を下支えする役割はいきおいFRBの双肩にかかっている。円高やデフレという課題を 抱える日本も、柔軟で機動的な対応が欠かせない。

 連邦公開市場委員会(FOMC)で決めたのは、2011年6月末までに総額6000億ドルの長期国債購入。それとは別に、FRBが保有する 住宅ローン担保証券(MBS)などの償還資金も、国債買い入れに充てる。向こう8カ月の国債購入額は合計8500億~9000億ドルと、円換算で70兆円 前後にのぼる。

 国債購入は長めの金利の低下を促し、経営者や投資家がリスクを取るのを助ける役割を果たす。加えて、景気対策のために赤字が膨らんだ財政 を、支援する狙いも見て取れる。米国の財政赤字は11年度(10年10月~11年9月)も1兆ドルを突破する見通しだが、FRBによる大量購入は赤字に 伴って発行される国債の大半を買い取ってしまう格好となる。

 FRBは09年にも長期国債の買い取りに乗り出した。その際は「中央銀行による財政赤字の穴埋め」に対する批判を意識して、購入額を3000億ドルにとどめた。今回は景気が腰折れし、デフレに突入してはならないと、財政との関係で「ルビコンの川」を渡ったようにみえる。

 中間選挙の結果、政権と議会の間でねじれが生じ、政府が有効な経済対策を打ち出せなくなる可能性が高まった。しかも住宅バブルの崩壊で家計 は過剰債務に直面し、不良債権を抱えた金融機関は、新規の貸し出しに二の足を踏んでいる。そんななか、機動的に動けるのは中央銀行だけだ、との考えが FRBを大規模な金融緩和に走らせたのだろう。

 FRBの緩和策がうまく効果を発揮してくれることを祈りたいが、その成り行きは予断を許さない。

 日本の経験からも、金融に亀裂が入った後の経済立て直しは容易でないからだ。例えば、米国は経営危機に陥った住宅金融公社を政府管理下に置き、住宅金融を下支えしている。ところが、その後も赤字が募り非常事態からの出口が見えない。

 米経済の失速は、輸出減少やドル安、株安など様々な経路で日本にも悪影響を及ぼす。日本にとっても、米国が直面する現状は人ごとではない。政策決定会合の日取りを前倒しした日銀は、リスクを点検し、次の一手の用意も怠るべきではない。

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G20が通貨安競争回避などで一致:識者はこうみる

2010年10月25日月曜日

 [東京 25日 ロイター] 韓国の慶州で23日に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、焦点だった通貨問題をめぐり通貨安競争に自制を求めるとともに、中国に為替相場の切り上げを促した格好となった。市場関係者のコメントは以下の通り。

●動きにくいなか81円維持がポイント、FOMCも視野

 <みずほ証券グローバルエコノミスト、林秀毅氏>

 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を経ても、日本の介入のしにくさは変わらない。米国の本音としては、日本の介入と中国 の介入では位置づけは異なるのだろうが、表だってそうも言いにくいだろう。かといって、日本が介入しないというわけでもない。11月の20カ国・地域 (G20)首脳会議までは動きにくい展開が続くだろう。

 ドル/円は81円を維持できるかがポイントになる。G20首脳会議に先立って米連邦公開市場委員会(FOMC)が予定されており、米金融緩和への思惑も出てきそうだ。週後半には、ドル安/円高圧力が徐々に強まるとみている。

●債券、底堅い展開か

 <ドイツ証券 チーフ金利ストラテジスト 山下周氏>

 G20共同声明では「通貨の競争的な切り下げ回避」「為替レートの過度な変動を監視」という両論が盛り込まれた。基本的には、中国の人民 元切り上げを意図したものだろう。ただ、急激なドル安・円高時以外には、円売り介入は難しいともいえる。FOMCが量的緩和に入っていく可能性が高いこと を考えると、ドル安、円高基調が「自然と」続くとみられる。

 きょうの円債相場は底堅く推移するのではないか。先週は5年や20年の供給に加えて、海外株高もあって、円債は弱含んだ。FOMCまで様 子見の投資家が多いため、戻りは限られそうだ。ただ、円高基調に変わりなく、海外株高でも日経平均の上値は重い。FOMCというイベント後には相場が堅調 に推移する可能性は高いとみている。世界景気減速でも、実効性の高い財政・金融政策がないという閉塞(へいそく)感が金利低下圧力となるだろう。

●日本は短期的には介入しにくい、円高進行を懸念

 <東洋証券 情報部長 大塚 竜太氏>

 事前の予想通り、「通貨安競争」阻止の具体策はなく、株式市場などマーケットへの影響は大きくないだろう。ただ一応、通貨の競争的な切り 下げを回避するとの共同声明は採択されており、日本としては短期的には為替介入をしにくくなったことはネガティブかもしれない。各国の利害が対立するな か、通貨に関して具体的な合意に達するのは難しいということが、あらためて明らかになり、円高基調が続くことが懸念されよう。ただドル円は81円前半の水 準が続いており、この水準には日本株の耐性ができつつもある。

●ドル安基調変わらず、ポジション面から底堅さも

 <クレディ・スイス証券チーフ通貨ストラテジスト 深谷幸司氏>

 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では「経済ファンダメンタルズを反映し、より市場で決定されるシステムに移行」する必 要があることが声明に盛り込まれた。中国の人民元安誘導をけん制したものだろう。一方、「準備通貨を保有する国は過度のボラティリティを警戒すべき」とし ており、米国の金融緩和によるドル安にも一定のけん制がかかった。

 為替市場からみれば、G20で、米追加緩和観測によるドル安の基調的な流れは変わらない。ただ、一方で、ドル売りポジションが大きく積み 上がっており、さらに膨らませることはしにくい。ドルは底堅くなりつつあり、米連邦公開市場委員会(FOMC)くらいまでのドル/円の下値は80.50円 程度だろう。G20への警戒感が消えたとしても、ドル売りが急に強まるとはみていない。

●為替安定に効果、株価はさらにこう着

 <日興コーディアル証券 シニアストラテジスト 河田 剛氏>

 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の声明では、通貨安競争をけん制する内容だったことから、今後円高局面で日本の通貨当 局による為替介入は難しくなるだろう。ただ、米国をはじめ他の先進国も通貨安を回避するとの見方ができるので、為替は安定的になるのではないか。ドル/円 は目先81―82円の水準が続くとみている。そうなると、レンジ相場が続く日本株は、さらにこう着感が強まることになる。目先は企業決算の想定為替レート を注目しており、円高想定でも業績見通しが強気なら買い手掛かりになる。

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G20財務相・中央銀行総裁会議の主な成果

[25日 ロイター] 韓国・慶州で23日閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、市場で決定される為替レートシステムへ の移行と、過度の外部不均衡の是正に必要なあらゆる政策を講じることで合意が成立した。G20財務相・中央銀行総裁会議の主要な成果は以下のとおり。

 1)共同声明は、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を反映し、より市場で決定される為替レートシステムに移行し、通貨の競争的な切 り下げを回避することを明記。G20主催当局は、今回の声明で為替問題に関する表現が「市場に基づく(market oriented)」から「市場が決定する(market determined)」に変更されたことは、トロントで開かれた前回のG20会合に比べ一段と強いメッセージを送ったことを意味する、との見方を示し た。

 ただ、今回の声明は、市場が期待していた、各国が自国通貨の上昇容認を約束する形にはいたらず、全体としては、通貨問題にかかわる声明内容は市場の期待を十分に満たすものではなかった。

 2)米国の量的緩和策をめぐっては、銀行セクターの流動性が過剰になり、新興国市場へのホットマネーの流入につながっているとの批判が あった。共同声明は、米国など準備通貨の発行国の責任を強調し、先進国は為替レートの「過度の変動と無秩序な動きを監視する」と明記した。

 また会議では、ドイツをはじめ、米国の金融緩和政策を公に批判する声があがるなど、緊張が続いていることが示された。ブリューデレ独経済技術相は23日、米国の流動性拡大策は為替操作に当たると批判した。

 3)今回の会合では、経常収支に数値目標を設定して制限するという米国の主張は認められなかったが、来月ソウルで開かれるG20首脳会議 でも、数値目標を含む「指標」をめぐる議論がある見通し。これらは国際通貨基金(IMF)が監督する。ただ、制限値を超えた国への制裁権限はない。

 4)IMFにおける新興・途上国の発言権強化に向け、議決権と出資比率を拡大することで合意。最貧国の投票権を保護しつつ、ダイナミック な新興国・途上国への、また過小代表国への6%以上の出資比率移転については、2012年の年次総会までに完了すべく作業する。2013年1月までに出資 比率計算式の包括的な見直しを行い、また2014年1月までに次期出資比率見直しを完了する、とした。

 こうした改革により、世界経済の問題解決の責任を新興・途上国にも負わせることが可能になる。とはいえ、ブラジルから韓国にいたるすべての国の政策実施状況を監督するのは困難と予想される。

 ただ、G20主催当局は、IMF改革をめぐる今回の合意は大きな成果、と評価している。 

 5)長年の課題となっていた、財政健全化、金融政策、為替レートに関するマクロプルーデンシャルの枠組みについては、包括的な枠組みでの取り組みにとどまり、具体策には踏み込まなかった。

 この枠組みをめぐっては、詳細が今後協議される見通しで、今回はいいスタートになったとの楽観的な見方がある一方、共同声明は行動を伴う可能性が低い文言にすぎないとする悲観的な見方もある。

 6)金融安定理事会(FSB)が提案した銀行の新たな自己資本・流動性規制の承認については、合意にあたり、おそらく今回の会合でもっとも異論がなかったとみられる。この合意は、金融システムの立て直しに向けたG20の取り組みにおける重要な節目を意味する。

 ただ、「大きすぎてつぶせない」銀行問題への対応はまだ初期段階にある。金融システム上重要な金融機関(SIFIs)の「損失吸収」能力を強化すべきという点では幅広いコンセンサスがあるものの、その対象とすべき金融機関についての合意はまだない。

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「有期労働」規制は雇用不安を広げる 2010/10/4 日経

2010年10月4日月曜日

 パートや派遣、契約社員など期間を定めて契約を結ぶ「有期労働者」をめぐり、雇用の新しいルール作りが今秋から労働政策審議会で始まる。低賃金の人を減らし、正社員への転換を雇う側に促すためとして、パートなどを一時的な仕事に限るといった規制の強化が議論される。

 だが規制を強めることで、契約期間に定めのある人たちの処遇が改善するかは疑問だ。円高で企業は海外移転を急ぎ、コスト削減に必死になって いる。人件費の増加を嫌い、正社員への登用は進まないのではないか。期限付きの契約を認める仕事を限定すれば、働けなくなる人が増えるだけという懸念があ る。

 総務省の労働力調査によると、有期労働者は契約期間が1年以内の人だけでも2009年に751万人と雇用者数の14%弱を占める。完全失業率は8月も5%と高い。規制強化が招く雇用不安は深刻になろう。

 学識者からなる厚生労働省の有期労働契約研究会は先ごろ、審議会の議論のたたき台となる報告をまとめた。期限付きで契約を結べる仕事を一時的、季節的な業務に限ったり、契約の更新回数に上限を設けたりすることなどの検討を求めている。

 上限を超えて契約が更新された場合、正社員のように「期間の定めのない雇用契約」に移ったとみなすなどの仕組みも挙げている。

 こうした規制ができた場合に懸念されることはいくつもある。企業は雇用契約を、更新の上限に達する直前で打ち切ろうとするのではないか。そうすると、これまで繰り返し契約を交わしてきたパート社員などは働き続けることができなくなる。

 契約を結べる仕事が限られ、非正規の労働力が使いにくくなれば、企業の海外移転がいっそう進み、国内の雇用がさらに減りかねない。

 昨年7月の有期労働者に対する厚労省の調査では、労働時間や日数が希望に合うなどの理由で仕事に満足していると答えた人が5割強いた。自らの意思で期限の定めのある仕事に就いている人は多い。規制はそうした人たちを困らせる結果になる。

 正社員と同じような仕事なのに賃金が低い人は少なくない。期限付きで働く人の処遇の向上が大切なのはもちろんだ。それには原資となる企業の利益を増やす必要がある。労働力の使い勝手を悪くする規制の強化は処遇の向上を難しくしかねない。

 臨時国会では製造業への派遣などを原則禁止とする労働者派遣法改正案が審議される。これも企業の活動を制約する。労働者保護をうたって雇用不安を広げては本末転倒だ。

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米小売業者、高コストを慎重に消費者に転嫁へ * 2010年 10月 4日 WSJ

 ビールからドレスまで、ステーキからタイヤまで、さまざまな主要消費財を販売する米小売業者は値上げによる米国経済力の集団テストを行いつつある。

 コーヒーチェーンのスターバックスや衣料品販売のジョーンズ・アパレル・グループ、それにグッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバーなどは原料費の上昇と格闘しており、その一部を消費者に転嫁つつある。

 小売業者がこうした値上げをせずにどこまで耐えられるかは、連邦準備理事会(FRB)の米経済の見方に影響し、新たな景気刺激策が必要かどうかの判断を左右する可能性がある。FRBは9月、追加刺激策を検討している主な理由が低いインフレ率であると指摘した。

 商務省が1日に発表したところでは、変動の大きい食品とエネルギーを除いた個人消費支出(PCE)物価指数の「コア」は前月比0.1%の上昇で、7月と同じだった。前年同月比では1.4%の上昇で、FRBが望ましいとするレンジを下回った。

 カルバンクラインやトミー・ヒルフィガーなどのブランドを持つフィリップス・バン・ヒューゼンのキリコ最高経営責任者(CEO)は「だれもが値上げを口 にしている」と指摘した。同CEOは、同社のコストは5~7%増えているとし、今年末から3~4%値上げをしてコスト上昇分の一部を取り戻したいと述べ た。

チャート

PCE物価指数(前年比)推移

 今のところ、景気回復力に対する疑念は消えないでいる。1日発表された指標は景気が大体において失速していることを示した。

 消費者が値上げを受け入れるなら、景気低迷が峠を越えたことを示唆しているといえるが、インフレがスパイラルに陥ることの警告とも受け取れる。消費者が 値上げを拒否すれば、これは挫折を意味し、企業利益に打撃を与える恐れがある。値上げで売上高が落ちれば、一部の企業は値上げを撤回して値引きに走る可能 性がある。

 大和キャピタル・マーケッツの主任エコノミスト、マイケル・モラン氏は「いつでもこうした妥協や瀬踏みというものがある」と述べるとともに、「インフレ率は最近見られたような低水準にとどまろう」との見通しを示した。

 その上で同氏は、高失業率が続き賃金の伸びが低いことから、消費者の値上げ受け入れの程度は限られていると指摘した。

 それにもかかわらず、企業は一部の労働コスト、特に海外製造におけるコストと、商品価格が上昇していると指摘する。商品価格は通常、企業のコスト構成では小さいが、最近は綿花が今年これまでに38%、コーヒーが33%、ゴムが17%など、急激な値上がりを見せている。

 一部の企業は今年に入って値上げに成功し、インフレへの影響もほとんど出ていない。グッドイヤーは1日、消費者向けタイヤを6%値上げしたが、これは6 月の同幅の値上げに次ぐものだ。この6月の値上げによって同社の北米売り上げは第2四半期に増加した。同社は原料の値上がりを理由に挙げた。

 リセッションは定義上では1年以上前に終わったにもかかわらず、多くの企業は消費者の反発とライバルに売り上げを奪われるのを恐れて、値上げを控えてい る。しかし、機は熟したと判断する企業が出てきた。サイモンクチャー&パートナースのパートナー、フランク・ルビー氏は「今は、価格支配力がほとんど、あ るいは全くないと仮定するよりもむしろ自分の価格支配力を試してみるべきときだ」と指摘した。


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安いが勝ち―通貨戦争 2010年 9月 29日WSJ

2010年9月30日木曜日

 輸出業者を守ろうとする各国政府の政治的な発言が過激さを増すなか、グローバル為替市場の緊張が高まり、貿易戦争の様相が強まっている。

イメージ Chris Ratcliffe/Bloomberg News

 少なくとも6カ国が活発に自国通貨の下落を狙った為替市場への介入を行っている。もっとも目立っているのが日本だ。5月以降14%値上がりした円の上昇を食い止めようとしている。

 米議会は、中国が通貨人民元を人為的に低く抑えているとして、同国を非難する法案を準備中だ。ブラジルは中央銀行の総裁が、通貨レアルを押し上げている短期の固定金利付き証券への投資に対する課税を検討していることを表明している。

 企業は常に競争力を高めようとし、政治家は常に大げさに騒ぐものではある。しかしグローバルな金融危機からの立ち直りが遅れているなか、各国の政策担当者が自国企業の利益を守ることに、より積極的になるのではないかという懸念が強まっている。

 シティグループのマクロ株式市場ストラテジスト、エリン・ブラウン氏は「保護主義の台頭は非常に大きなリスク要因だ」と語る。同氏は米中間選挙後、さらに保護主義の動きが強まるとみている。

 為替相場の緊張は来週ワシントンで開かれる国際通貨基金(IMF)世銀総会でも議題に取り上げられる可能性がある。

 日本の政府・日銀は今月、6年半ぶりに円売り介入を行った。介入の規模は約2兆円と、1日の介入額としては過去最大だったという。日本以外にも台湾、韓 国、タイなどのアジア諸国も自国通貨売り介入を行っている。南米では、ブラジル、コロンビア、ペルーが介入を実施している。

 米国では保護主義的な動きが強まっており、下院が30日に中国の為替政策は中国企業を不公正に支援しているという中国非難を決議する予定だ。上院でも チャールズ・シューマー議員(民主、ニューヨーク州)が中間選挙後に同様な決議を行うための準備を進めている。もっとも、法案成立の見込みは薄い。

 新興国の力強い経済成長が海外の資金を引き付け、新興国の通貨を押し上げている。米国では追加的金融緩和が見込まれている一方、アジアではインフレ懸念が高まり金利が上昇している。こうしたところから投資家は、高利回りを求め資金を西から東に移動させている。

 英銀HSBCの新興国通貨ストラテジー部門のトップ、リチャード・イェツェンガ氏は、「この資金の流れは健全なものだ」と語る。

 中国に対するアジア諸国の政府関係者の発言はおおむね控え目だが、他国の通貨政策を激しく批判する国もある。ブラジルのギド・マンテーガ財務相は今週、 米国、日本などに対し、自国通貨を安く誘導してブラジルのような輸出国の犠牲のもとに経済成長を促そうとしていると批判した。同国通貨レアルは今年30% 以上値上がりしている。

 同財務相は「われわれは為替戦争の真っ只中だ。この戦争はブラジルの競争力を奪う」と懸念を示した。また同国中央銀行のメイレレス総裁は同国に流入する 資金への課税の可能性を示唆した。同国の政策金利は10.75%。景気の過熱を防ぐためには金利を引き上げる必要がある一方、米国や日本で低金利で調達し た資金の流入によって通貨レアルが一段高となっている。

 10月3日に投票日を迎える同国の大統領選で選ばれる次期大統領は、通貨高への対処が経済面での最初の大仕事となる。ルラ大統領が後継に選んだジルマ・ ルセフ前エネルギー相は同国が11年前に導入した変動相場制を支持しているが、マンテーガ財務相など与党労働党にも多い強硬な介入論者からの圧力を受けそ うだ。


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【産経抄】9月26日

2010年9月26日日曜日

 平成生まれのみなさんへ。長かったいくさが終わって、中国がぼくたちの「ともだち」だった時期がほんのひとときあったんです。つきあい始めたころには、白黒の珍獣を友情の印に贈ってくれ、上野動物園には長蛇の列ができました。

 ▼こんな愛くるしい動物のいる国はきっと、やさしい人たちが住んでいるんだろうな、とぼくたちは信じました。もちろん、いくさで死んだ兵隊さんを祭った神社に偉い人が参っても文句ひとついいませんでした。

 ▼しばらくして、「ともだち」は、神社へのお参りに難癖をつけ、ぼくたちが持っている島を「オレのものだ」と言い出しました。びっくりしましたが、トウ小平というおじさんが「次の世代は我々よりもっと知恵があるだろう」と言ってくれました。

 ▼でも小平おじさんは、本当は怖い人だったんです。「自由が欲しい」と広場に座り込んでいた若者たちが目障りになり、兵隊さんに鉄砲を撃たせ、多くの人を殺してしまいました。みんなはびっくりして「こんな野蛮人とはつきあえない」と村八分にしました。

 ▼それでもぼくたちは、みんなに「こいつは本当はいい奴(やつ)なんだよ」と口をきいてあげ、貧しかった彼には、いっぱいお金をあげたり、貸してあげたりしました。おかげで「ともだち」は、みるみるお金持ちになりました。

 ▼そのお金で「ともだち」は軍艦や戦闘機を いっぱい買い、今度はもっと大きな声で「この島はオレのものだ」と叫びました。「次の世代の知恵」とは、腕ずくで島を奪うことだったんです。パンダにだま されたぼくたちは浅はかでした。「次の世代」のみなさんは、もっともっと力をつけて真の友人をつくってください。お願いします。

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日本のキングメーカー、ついに首相の座に動く 2010年 9月 11日 WSJ

2010年9月13日月曜日

 小沢一郎氏は、長期にわたる政界の権力者であり、昨年、半世紀近く続いた自民党政権を退陣に追い込んだ。周囲は彼を「選挙の神様」と呼ぶ。しかし、彼 は、愛されるというよりは恐れられる神様だ。無愛想で単刀直入、裏舞台で権力をふるうことが多く、メディアからは「陰の実力者」と呼ばれ、多くの日本人か らは嫌われる存在だ。政治とカネの問題で困難な状況にあることで、彼のイメージアップはとても望めない。

小沢氏 Bloomberg News

小沢一郎氏(左)

 そして、小沢氏は、同じ党出身の日本のリーダーを退陣させるため、対決の場である14日の代表選に向かって走り出した。勝者が手にする賞品は、彼が常に逃がしてきたもの、「首相の座」だ。

 小沢氏は、68歳にしてついに政治の表舞台に登場し、従来の強面イメージの払しょくに躍起だ。市民との対話集会では終始笑顔で、敬遠していたテレビのトーク番組では冗談もはさむ。

 小沢氏は約2週間前、代表選出馬を表明し、菅直人首相と対決する考えを示して日本中を驚かせた。民主党の議会勢力に基づくと、代表に選ばれれば、小沢氏 は首相になる。この大胆な行動は、1年前、自民党を圧勝で下した民主党政権にまだ順応できていない政治システムに新たな動揺をもたらした。

 小沢氏の経済政策――円高阻止に向けた為替市場介入、より大規模な財政出動、すでに高水準の負債を抱える政府による借り入れの可能性――は、東京の金融市場を混乱させている。

イメージ Associated Press

クリントン米国務長官(左)と小沢氏(09年)

 また小沢氏は、日本の外交を刷新するとして、より「対等な」日米関係と、沖縄の米海兵隊基地協定を見直す可能性を約束、米政府の神経を逆なでしている。

 小沢氏が代表選で敗北する可能性もある。しかし、彼が強力な党内2位の座にあることを示すことは、小沢氏に新たな影響力のある役割をもたらすかもしれない。そうならなければ、支持者と共に離党して、政治状勢を変えることにつながる可能性もある。

 議員生活41年の小沢氏は、日本の政界にあって第一級の戦略家だ。この20年の混迷の中で、政治システム構築に貢献してきた主役だ。彼の力の源泉は、そ の並外れた資金集め能力だ。小沢氏のことを良く言わない人でさえ、弱腰で優柔不断な最近の首相とは対照的な資質であるリーダーシップを彼が発揮するだろ う、と言う。

 また、小沢氏は「注目発言」でも知られる。2009年11月に「排他的なキリスト教を背景とした欧米社会は行き詰っている」との発言を大々的に報じられた。つい先月は、「米国人は好きだが単細胞なところがある」と発言した。

接戦の代表選

 代表選の投票に関する調査は、接戦を示している。菅首相が若干リードしているものの、態度未定者が多く、小沢氏が勢いを盛り返している模様だ。仏頂面で強面の小沢氏は、そのイメージを和らげ、「国民の味方」であるとの演出が功を奏している。

 小沢氏は、インターネットの動画サイト「ニコニコ生放送」のトーク番組に緊急出演した。小沢氏は、黒っぽいスーツ姿で背筋を伸ばして座り、若手の学者やジャーナリストと談笑した。話題は、雇用政策から彼が今読んでいる本など、多岐にわたった。

 人々と直接話すことができて、インターネットは素晴らしい、と小沢氏は同サイトでインターネットを称賛。新聞やテレビは、10行話したうちの幾つかの単語を拾い、都合の良いストーリーを作り上げる、と批判した。

 代表選の有権者は、党員・サポーター、地方議員を含む約34万人。しかし、全体の1%にすぎない民主党国会議員412人に、多くの議決権を与える複雑なしくみだ。

 民主党の国会議員、彼らこそが小沢氏の基盤だ。多くの議員の当選は小沢氏の支援によるところが大きい。

小沢流新人教育

 小沢氏の新人議員に対する教育は、ハードで厳しい。脳外科医から国会議員に転じた石森久嗣(いしもりひさつぐ)氏は、握手した人の数、張り出したポスター、配ったチラシの枚数について毎月、手書きの報告書を作成するよう小沢氏に指導された、と語る。

 元市議会議員で2児の母である岡本英子(おかもとえいこ)氏は、昨年の衆議院選に立候補した。その際、小沢氏は、彼女の事務所に側近を常駐させ、詳細な アドバイスを与えた。この側近は彼女に、地域のすべてのゴミ収集所で、1分間の演説を行うよう言った。通常、政治家は駅の街頭演説で見かけるが、素通りす る人は多い。しかし、政治家が近所に現れたら、びっくりして注意を払う。

 岡本氏は無事に議席を獲得し、今は小沢氏の代表選の応援に力を入れている。他の国会議員の訪問や電話、手紙で攻勢をかけている。小沢先生がいなければ、今の自分はいない、と岡本氏は言う。

イメージ Reuters

中国の胡錦濤主席(右)と小沢氏(06年)

 150名近くの民主党新人議員の誕生を受け、小沢氏は昨年、毎朝セミナーを開き、講師を招くなどして政治教育を行った。昨年12月には、国会議員と党支持者、総勢600名を率いて北京を訪れ、中国の胡錦濤国家主席の歓待を受けた。

自民党の権力者、離党、長い野党時代

 小沢氏は、長期政権が続いた自民党で育ち、年配の政治家の中で秘蔵っ子として扱われた。1980年代終わりから90年代初め、彼は「権力者」の地位を確 立、まもなく多くの首相よりも強い影響力を持つとみられるようになった。彼自身が首相になるのも時間の問題とされていた。

 しかし、1993年、小沢氏は、新たな日本の政策目標として、競争的な民主主義、すなわち民意により政権交代がなされる「政治改革」を掲げた。彼と支持 者グループは自民党を離党して新党を作ったが、すぐに他の勢力と連携し、非自民党政権を成立させることに成功した。彼は、競争的な民主主義を実現するた め、抜本的な選挙改革法案の成立にこぎつけた。

 しかしながら、連立政権は1年足らずで崩壊、再び自民党が政権を握った。それ以降、小沢氏は、政権奪取を胸に秘め15年間を野党で過ごした。

 そして昨年8月末の衆議院選挙で、民主党は圧勝した。非自民党政権が衆議院の過半数を占めるのは55年ぶりのことだった。

 2009年の勝利は小沢氏のお膳立てによるものだったが、彼は首相になることはできなかった。政治資金問題絡みで3人の秘書が逮捕されたため、党の代表 に就くには彼はクリーンさに欠けていた。民主政権が発足して数カ月、彼は自民党時代と同じ役割を演じるようにみえた。首相――当時は鳩山首相――を操る フィクサーとして。

 鳩山首相の辞任後、菅直人氏が首相に就任したものの、反小沢グループ中心の組閣となった。小沢氏の政治生命はこれで終わりかと思われたが、彼は先月末、2年に一度9月半ばに行われる代表選への出馬を表明、菅首相と対決する姿勢を示した。

 同じ党出身の首相を退陣に追い込む小沢氏の試みは、批判的に報じられている。新聞の世論調査では、一般市民の70~80%が菅氏の方が望ましいとの見方を示している。

 横粂勝仁(よこくめかつひと)衆議院議員によると、彼の選挙区では、有権者の5人中4人が小沢氏よりも菅氏が望ましいと考えている。横粂氏は毎日、路上で市民に呼び止められ、小沢氏を支持した場合、横粂氏支持を取り消すと言われるという。

 しかし、横粂氏は、小沢氏の決断力を尊敬している。菅首相のクリーンでオープンなスタイルは素晴らしいが、小沢氏の政治力と実行力も捨て難い、と話し、小沢氏を支持するかもしれないという。

 専門家によると、小沢氏が勝つ方が、菅氏が勝つよりも、党分裂の可能性は低い。小沢氏を支持する国会議員は若い世代が多く、組閣のためには菅氏に近い先輩格の議員を選ぶ必要があるからだ。

 一方、小沢氏の勝利は野党の攻撃を引き起こすかもしれない。野党の批判が強まり、問責決議という事態になれば、参議院で過半数に満たない民主党は問責決議案を否決できない。もしそうなれば、衆議院解散と新たな選挙の可能性もある。

宇都宮で演説会

 9月7日、小沢氏は宇都宮市内で演説会を行った。うだる暑さの中、約千人もの党員やサポーターなど――大半が高齢夫婦、中年男性――が、普段は結婚式場として使われている宴会用ホールに集まった。

 田中真紀子・衆院議員が応援演説を行った時、会場は沸いた。田中氏は、短命に終わった最近の首相らを「よくしゃべる」が弱い、と批判。もうすぐ真の首相に会える、と小沢氏を持ち上げた。

 小沢氏は、この日の演説で、代表選で繰り返して使っているポピュリスト的なメッセージを送った。貧富、都市と地方、といった格差が問題であり、この格差是正を目指すとし、(目標を達成するために)「政治生命のすべて、命をかけて戦う」とこぶしを握りながら訴えた。

 支持者のひとり、山梨アイ子さん(72歳)は、演壇のそばに場所を確保するため、早い時間に到着した。彼女は、小沢氏の似顔絵で飾られたお手製のうちわ を持参。小沢氏が会場を去ろうとした時、山梨さんは彼に駆け寄り、彼女と息子の投票用紙――小沢氏の名前が記入されていた――を見せ、握手を交わすことが できた。

 演説会の後、山梨さんは興奮しながら、「小沢さんしかいない。言うことが決してぶれない」と言った。

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新卒就職対策 成長戦略こそ最大の支援策だ(9月6日付・読売社説)

2010年9月8日水曜日

 政府が先に取りまとめた、「経済対策の基本方針」の一つに、新卒者の就職支援がある。

 この春の大卒の就職内定率は91・8%で、この10年で最低だった。デフレや円高の進行など、経済情勢の不透明化で企業の来春の採用予定者数はさらに減少し、就職戦線は一段と厳しさを増している。

 菅首相も、「一に雇用、二に雇用、三に雇用だ」と強調しているが、求められるのは結果だ。民主党代表選の行方にかかわらず、新卒者を中心に、若者の安定した雇用の場をいかに確保するかは、緊急の課題である。

 政府が打ち出した新卒者支援策の柱は、採用意欲の高い中小企業への就職促進だ。

 まず、大学やハローワークの就職相談員を増員し、両者が緊密に連携することで中小企業の求人を開拓する。同時に中小企業の魅力を新卒者に発信し、就職につなげていくという。

 多くの新卒者が、成長の可能性を秘めた中小企業で働くようになれば、産業界全体の活性化にもなるのではないか。

 さらに、卒業後も就職先のない人や留年生を対象に、体験雇用や職場実習を受け入れた企業に奨励金を支給する。卒業後3年以内の既卒者を新卒枠で採用した企業にも、奨励金を支給する。

 深刻な就職状況下では、奨励金で採用を促す工夫も必要なのだろう。いったん卒業したら就職の窓口が極端に狭くなる現状は、改めていかなければならない。

 ただ、円高や少子高齢化による国内需要の減少を背景に、製造拠点を海外に移す企業が相次いでいる。こうした構造的変化には、就職相談員の増員や奨励金の導入では根本的な解決にならない。

 6月に決定した政府の「新成長戦略」では、速やかにデフレを終結させ、日本経済を本格的な回復軌道に乗せる、としている。

 まさに企業の採用意欲を高める戦略が欠かせないが、目標実現に向けた政府の動きは鈍い。

 今回の「基本方針」には、中小企業の技術開発支援や規制・制度改革、国内への投資を促す税制上の措置も掲げられた。こうした施策もスピードが肝心である。

 学生の職業意識の欠如やコミュニケーション能力の低下を指摘する調査結果がある。海外でも通用する人材など、専門性を重視する企業が増えてきた。

 政府や大学、そして大学生自身も、こうした現実に目を向けた対応が求められよう。

2010年9月6日01時02分 読売新聞)

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【オピニオン】誰が円高を恐れるのか? WSJ 2010年 9月 7日 11:12 JST

 最近の円高を受けて、日本では政治家やメディアが興奮しまくっている。紋切り型の理屈では、強い通貨は輸出企業にとって悪い材料で、現在のように輸出主導型の景気回復には潜在的に深刻な打撃になる。しかし、円高の真の効果は大半の人々が考えるのとは異なっている。

 意外なことに、円高の最大の影響は、輸出企業にではなく、国内市場で販売している日本企業や伝統的に円高に無関心な官僚や政治家に強く表れているよう だ。海外での販売に依存する企業は、必ずしもかつてのように輸出に依存していない。これら企業は、競争上の圧力や長期的な円高トレンドに対応して、ずっと 以前に生産拠点を海外にシフトし始めた。1997年から2007年までの10年間で、製造業者は海外生産比率を11.4%から19.1%に拡大した。日本 の最も競争力のある輸出企業は同時に海外生産の先導役でもある。日本の輸送機材(自動車を含む)の39.2%、情報・通信機器の28.1%が現在、海外で 生産されている。 


東京湾岸のコンテナ基地

東京湾岸のコンテナ基地


 その結果、日本は今や、海外への輸出自体ではなく海外投資からの収入に多くを依存している。確かに、日本の競争力のある自動車・エレクトロニクス業界の 間では、海外進出の動きが05~07年の間にピークに達した。この間の円安が海外進出トレンドが逆転する一因であったかもしれない。しかし、最近の円高を 受けて、競争力のある輸出企業は戦略を再検討し始めているから、こうした企業が海外工場での投資拡大を検討しない理由はどこにもない。 

 このことは国内雇用に影響を及ぼすし、政策当局者の懸念にもなるだろう。だが、その影響の度合いは一般に考えられているほど大きくはないかもしれない。 経済産業省(METI)の最近の調査では、現在の円高水準が続くとすれば、海外の工場への投資を一段と拡大すると回答した製造企業は全体の61%に達する という。しかし既存の工場を海外の工場に置き換えようとする企業はわずか39%にすぎない。つまり、製造業者の大半は、海外投資に現在使っていない資金 (日本企業は企業貯蓄率が高いおかげで、こうした資金を豊富に保有している)を拠出するとしており、必ずしも国内工場を閉鎖するわけではないということ だ。

 一方、日本の企業社会の中には円高の恩恵を享受し始めている部門もある。多くの輸出企業は既に円建てで契約している。日本の通関統計によれば、米国を除 いて、日本の輸出製品をネットベースでドルで支払っている海外の地域はほとんどない。その結果、ドル建てのシェアは輸出で48.6%、輸入で71.7%と なっている。また円建てシェアは輸出で41%、輸入で23.6%だ。つまり、日本はますます強くなる円で輸出品の支払いを受け、ますます弱くなるドルで輸 入品の代金支払いをしている。

 METIの調査でわかった重要なポイントは、円高の最大の危険は、輸出市場シェアが侵食されることではなく日本国内市場での輸入製品との競争激化だと回 答している製造企業が41%に達している点だ。これに対し、現在のドル・円水準では貿易相手国が日本の輸出製品を購入しなくなってしまうと回答している企 業はわずか33%だ。

 これは、これまで外国の消費財・サービス輸入を制限しようと努力してきた日本のような消費依存経済大国の病理の一断面を示している。これまで外国製品に 差別的だった日本の消費者は、円高で輸入品が安くなっている時期に既存の国内の財・サービスを購入する価値が本当にあるのだろうかと自問し始めているよう だ。円高は本質的に、外国の財・サービスの輸入のさまざまな障壁を少なくとも部分的に相殺しているのだ。

 つまるところ、円高論議の盛んな現在こそ、海外に焦点を当てるのではなく、長くないがしろにされてきた日本国内の財・サービス部門の在り方を徹底的に検 証する好機だ。これは国内企業にとっても政策当局者にとっても難題だ。日本は戦後長らく、輸出依存型の成長に毒され続けたため、政治的な無関心と効果の上 がらない政策決定を許してきてしまった。これが政治家たちが依然として円・ドル水準にかくも執着する理由の一つだ。

 日本企業と政策当局者は、どうしたら国内の消費者の新たなニーズにうまく対応できるか? 日本の最も優れた企業が海外に投資して海外工場での生産を拡大 したのとまさに同じように、国内販売企業はまず国内で流通、マーケティング、そしてサポートという一連のプロセスを検証し、そして改善すべきだ。政策当局 者は企業のこのプロセスを側面支援するため、企業が適用困難な規制を緩和する努力を払わなければならない。中小企業の立ち上げを困難にしている規制を撤廃 し、生産性を向上させる技術に投資するよう税制措置を導入することだ。

 政策当局者はまた、為替レートへの介入、ないし外国企業への参入障壁を高くすることによってこのプロセスを抑えようとする誘惑に抗すべきだろう。日本の企業社会がこの移行を遅らせれば遅らせるほど、その実現は困難になるだろう。

 (ナオミ・フィンク氏は三菱東京UFJ銀行のストラテジスト)

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日本の追加対策は型通り、必要なのは構造改革 8/31WSJ

2010年9月1日水曜日

 世界の経済力ランキングで中国に抜かれ、失われた20年は言わずもがな。こうした状況からだれもが、日本の政策担当者が大胆な行動に出ると考えるはずだ。しかし、そうではないのだ。日本の政治家と中央銀行は投資家に対し、いつものようなやり方で対応しているだけだ。

 急激な円高に対応するため、30日開催された日銀の臨時金融政策決定会合を見てみよう。日銀は、昨年12月に開始し今年3月に既に拡大していた短期資金 貸出プログラムについて、資金供給額をさらに10兆円拡大することを決めた。一方、政府は、消費促進や急激な円高で打撃を受けている輸出企業支援など 9200億円を財源とする追加経済対策を発表した。

 追加資金供給には、為替を円安にし輸出競争力を高めることにより、日本経済の長期低迷を打破するという意図があるのだろう。投資家は、中央銀行と政府間 で政策協調が一段と拡大したとの見方から、安心するはずだ。菅直人首相はこの1週間、日銀の白川方明総裁と数回にわたり、政策協議を行った。寛大に解釈す れば、今回の金融緩和により、追加経済対策のとらえどころのないケインジアン的乗数効果が高められる可能性はある。

 しかし、現実はかなり違う。日本の金融上の問題は、資金供給が不足しているのではなく、資金需要がないことなのだ。今年3月までの1年間の企業純貯蓄が 国内総生産(GDP)に占める比率は7.3%だ。これは、多くの企業にはすでに、成長や雇用創出に向けた多額の手元資金があることを意味する。問題は企業 がそうしたくないことだ。日銀が大手銀行50行の融資担当者を対象に実施した最新調査によると、過去3カ月で企業からの融資需要が僅かあるいはかなりあっ たと回答したのはゼロだった。15行の担当者は融資需要はやや落ちたと回答し、残りは前回と同程度と答えている。

 日本がこの活力問題を解決するまで、日銀は永久に効果のない政策を続けることになる。麻薬中毒のようにその都度1回打てば、一時的に「ハイ」になるかも しれない。日銀の短期貸出ファシリティの創設と最初の拡大により、円相場は小幅下落し、株式相場も上昇した。しかし、これらの効果は一時的で、日本経済が この麻薬に慣れてくれば、同様な効果を生むために服用量を増やすことが必要になる。30日の発表に対する市場の反応は下火になり、円相場もほとんど反応薄 となった。

 日本が真に必要としていることは、経済再建に取り組むことだ。それには減税、郵貯銀行の規制緩和あるいは民営化などの構造改革が必要になる。しかし、法 人税減税提案の例外を除き、日本の政治家はこれらの改革路線に沿って努力することに抵抗してきた。現在は全く逆行している。菅首相率いる民主党政権は、当 初の郵政民営化から後退し始めている。困難な政治的選択をするよりも、中央銀行を非難していることほうが格段簡単なことだ。一方、中央銀行も修復できない 問題を解決しようと信用供与を拡大する。

 日本の指導者が意味ある改革を履行し始めるまで、日本経済は低速ギアのままで推移し、為替や他のほぼ二次的な問題をめぐり、政治的な問題が散発的に噴出 するだろう。恐らく日本の政治家は、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長が先週末、ワイオミング州ジャクソンホールでの中銀関係者シンポジウムで 行った講演の重要部分を聞いていなかったか、ほとんど理解していないのだろう。議長は「中央銀行だけで世界の経済問題を解決することができない」と指摘し ていた。

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円の神話 ウォール・ストリート・ジャーナル 2010年 8月 25日 7:13

2010年8月25日水曜日

 円は24日のアジア時間帯に対ドルで15年ぶり高値をつけ、日経平均株価は9000円を割り込んだ。与党民主党はこれまで円に対し無干渉姿勢を取ってき たが、6年ぶりの為替介入の承認に近づいているもようで、日銀は象徴的な行動を取る圧力にさらされている。また、政府は引き続き予備費を使った1兆 7000億円規模の追加景気対策の利用も可能で、一段の景気刺激策が実施される可能性もある。しかし、こうした措置はいずれも誤りだ。なぜなら円相場は経 済実態への注意をそらす「煙幕」だからだ。


 まず第一に、円が実際強いのかどうかは疑問だ。日本の何年にも及ぶデフレと貿易相手諸国のインフレを考慮すると、円は15年ぶり高値を引き続き28%下 回っている。たとえば、ドル・円相場が1ドル=100円だった数年前に、日本からの輸出品が100円だったと仮定しよう。今、その輸出品が85円で、対ド ルでの円相場が1ドル=85円だったとしたら、どのように違うのかということだ。

 これはドル・円相場がデフレという基本的な病の象徴に過ぎないことをまさに思い起こさせるものだ。為替相場は結局、通貨の相対的な供給によって決まる。 デフレ時には、信用創造の機能が停止する。つまり、日本の銀行融資は再び縮小しつつあり、7月には8カ月連続での減少となった。日本経済と通貨供給量は下 降スパイラルに落ち込むリスクにさらされている。


 一方、大量のドルが出回っている。現在の円高局面は一部には、米連邦準備理事会(FRB)が「量的緩和」継続を決定したことにより誘発された。これは銀 行システムに追加の流動性を供給する措置で、2001年に日銀が始めた。日本の場合は、実体経済への影響はほとんどなかった。


 円が注意をそらす「煙幕」だというもう一つの証拠は、円が景気循環に逆行しているという事実だ。通常、景気拡大に伴い金利が上昇し、従って通貨が上昇す る。しかし、日本の場合は、リセッション(景気後退)を受けて、円相場が過熱している。これは日本の企業が投資資金を本国に引き揚げているからかもしれな い。

 日本の長期にわたるデフレとの戦いをめぐる奇妙な環境が他の例外的な現象も引き起こしている。日銀が名目金利をほぼゼロ%付近に据え置いていることか ら、円は世界の資金調達通貨となった。円を利用して高金利通貨を買い入れる「キャリートレード」は事実上、円の膨大なショート(売り持ち)ポジションで、 円安につながった。しかし、米国など日本以外の国のインフレ率が低下するにつれ、金利差が解消し、レバレッジに向けたドルの魅力が一段と増した。円キャ リー・トレードの解消に伴い、大量のショートの踏み上げにつながっている。


 強い円が「非常に悪いこと」――という固定観念を伴う重商主義を日本が克服すると期待しても無理だろう。また、日本の景気回復がほぼ全面的に輸出の伸び に依存していることは気がかりであることも認めよう。日本の輸出業者は自分たちの製品が世界市場で競争力を失いつつあることに苛立っている。トヨタの概算 では、円高・ドル安方向に1円進むとごに、同社の通期純利益は約300億円縮小する。これは同社の今年度の通期利益見通しの約10分の1に相当する。


 しかし、円は数十年間にわたって上昇トレンドを続けてきた。まさにこのことが、トヨタのような輸出企業がこれほどの効率性を維持することにつながった。


 一方、これよりずっと大規模な日本の国内志向の企業セクターは、円相場の上げ下げにかかわらず、引き続き停滞している。こうした企業を生き延びさせるこ とこそ、実に難しい問題だ。これは為替介入と景気刺激策という得意な対処策を諦め、それに代わって、規制緩和に焦点を絞り、政府規模を縮小し、減税を進め ることを意味する。

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新卒者体験雇用事業について

2010年8月19日木曜日

働くナビ:就職氷河期対策で導入された「新卒者体験雇用事業」の成果と課題は。

 ◆就職氷河期対策で導入された「新卒者体験雇用事業」の成果と課題は。
 ◇企業と若者が「お見合い」 少ない事務職の求人、広報体制の強化も必要
 ◇中卒~大卒の702人利用し244人が正規雇用に

 第2の「就職氷河期」とも言われる厳しい就職戦線。政府は、卒業後も就職活動を続ける若者を支援しようと「新卒者体験雇用事業」を新設した。1~3カ月の間、体験的に働くことで企業と若者の“お見合い”期間を設け、正規雇用へつなげようとする取り組みだ。実際に就職に結びついた人もいるが、学生や企業に対する広報などで課題が浮かんでいる。

 7月21日、長妻昭厚生労働相は、飲食店チェーンなどを展開する企業「ラムラ」の食品加工工場(千葉県市川市)を訪れた。同社は新卒者体験雇用事業を使って今年4月から3人を受け入れている。そのうち県立高校を今春卒業した馬場綾子さん(18)を1カ月の体験雇用を経た5月中旬から正社員として採用した。

 馬場さんがこの制度を知ったのは、「高校卒業後も就職が決まらず、いつまでもふらふらしているわけにはいかないので」と訪れた地元のハローワーク。「新卒者体験雇用制度」と書かれた紙を見つけて担当者に話を聞いたことがきっかけだった。「いきなり入るより試してみて大丈夫だったら、という安心感があった」と応募。正社員として就職につながり、喜んでいる。

 この制度をハローワークで知った馬場さんだが、最初はハローワークには若い人が利用するイメージがなく、未就職のまま卒業するまでは家族に勧められても行く勇気がなかったという。「学校などを通じて制度を知ることができればもっと利用する人がいると思う」と話す。

 広報の問題点は企業向けにもあった。工場を訪れた長妻氏が、同社の村川明社長らに制度をどこで知ったか尋ねたところ、「新聞記事でたまたま見つけた」。人事担当者がハローワークに詳しい内容を問い合わせ、制度を利用したという。

 村川社長は「入社しても3カ月で辞めていく人もいることを考えると(入社前に体験的に働ける同制度は)いい制度。学校と企業とハローワークが一体となってコミュニケーションが取れれば、もっといい成果が上がるのではないか」と指摘する。

 長妻氏は視察後、記者団に「広報など取り組みを強化しないといけない」と述べた。

   *

 同制度は昨年の緊急経済対策に盛り込まれた。長引く景気の低迷から、新規採用に及び腰になる企業に採用を促すとともに、就職が決まっていない若者には仕事内容を見極める機会を提供。職種の「食わず嫌い」にならないよう選択肢を広げる機会を作るのが狙いだ。今年度限りの事業で、約2400人分の予算3億7400万円を09年度2次補正予算で計上した。

 6月からは体験雇用の期間を、1カ月から最長3カ月まで拡大した。受け入れ企業には1カ月目は8万円、2、3カ月目はそれぞれ4万円が奨励金として支給される。

 4月以降、全国で702人が利用、320人が体験期間を終了し、うち244人が正規雇用された(7月11日現在)。利用者の内訳は大卒299人(うち正規雇用は100人)、高卒344人(同117人)、中卒59人(同27人)。

 ただ、大卒者の希望が集中する事務職の求人は多くないため、体験雇用の受け皿さえ足りない「ミスマッチ」が生じるなどの課題もある。

【山田夢留】毎日新聞 2010年8月2日 東京朝刊

厚労省、新卒1万人就職支援 来年度、試験雇用の助成増額

2010/8/19付 日経

 厚生労働省は、大学生や高校生の就職を後押しするため、2011年度から若年層を対象に支援制度を強化する。新卒者を試験的に雇う企業を 支援する「新卒者体験雇用事業」で、企業への助成額を5~9割引き上げ、対象者を年2400人から1万人超に拡大する。フリーターを正社員として雇用した 企業に最大100万円を支給する制度でも、対象者を25歳未満に広げる。景気の先行き懸念に対応し、雇用の安定を目指す。

 今月末に締め切る11年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。菅直人首相は17日、「若い人の雇用が大変厳しい」と話しており、雇用情勢次第では経済対策として一部施策を前倒しで実施する可能性もある。予算規模は合計で300億~400億円程度の見込みだ。

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「新卒一括」にとらわれず多様な採用を 2010/8/16付 日経

2010年8月18日水曜日

 働き口が見つからずに卒業する大学生が急増している。多くの企業の採用が4月に新卒者をまとめて雇う「新卒一括」だけなので、就職のチャンスは事実上一度に限られ、卒業後は職探しが難しい。職に就けない若者の増加は社会の損失だ。


 企業の採用がもっと多様になれば既卒者でも就職しやすくなる。採用絞り込みが続き、求職者が増えるとしても、既卒者という新しい労働市場が生まれ、人材の供給源になる。企業は新卒にとらわれすぎている採用を見直すときだ。


既卒労働市場の育成を


 今春卒業した大学生54万1千人のうち就職も進学もしなかった人は8万7千人で前年より28%も増えた。企業は海外事業を拡大し、国内の雇用は増えにくい。急激な円高も加わって景気は先行き不透明だ。就職の環境は容易には好転しないだろう。


 だからといって多くの若者が職に就けない現状を放置はできない。経済情勢によって就職が左右され、フリーター暮らしを強いられる若者が増えれば社会の活力が失われる。

 学生の就職活動が早期化、長期化して大学教育の足かせになっている問題も見過ごせない。学生によっては大学3年生の夏ごろから「就活」を始める。「さあこれから専門教育という時期に学生が勉学から離れていく」と嘆く大学人は多い。


 新卒一括採用に固執しない有力企業も出始めてはいる。西日本旅客鉄道は2009年の採用から既卒者に門戸を開いた。駅の業務や列車運転などの要員として29歳以下を09年春に44人、今春は39人を採った。


 日本IBMは大学卒業後1年半以内なら新卒とみなして採り、一般の新卒と同じ研修で情報システム提案などの技能を習得させている。12年春 の採用からは卒業後2年以内を新卒とみなす。新卒扱いとする卒業後の年数をもっと延ばす動きが出てくれば既卒者の就職機会が広がろう。


 新卒一括採用は高度成長期に年功序列とともに定着した。勤続年数に応じて賃金を上げる年功序列は社員を生え抜きで固め、入社年次ごとにグループ分けする狙いだった。


 だが年功序列が崩れつつある今、新卒一括採用は意義が薄れている。募集と選考の時期を集中させて効率的な採用ができる新卒一括方式は当分続くとみられるが、有能な人材を幅広く確保するうえでも採用をより柔軟に変えていくべきだろう。


 リクルートの調査によると、来春の大卒者への求人倍率は従業員300人未満の企業では4.4倍。中小企業は既卒者の有望な就職先だ。日本商 工会議所の委託でリクルートは、今春大学を出たが未就職の若者にインターネットで中小企業の求人情報を提供し始めた。既卒者の労働市場育成は経済活性化に つながる。


 大学側も変わらなければならない。新卒一括採用の慣行にもたれかかり、きちんとしたキャリアガイダンス(職業指導)を怠ってきたのが実情だ。どんな職種や企業が自分に向いているかを個々の学生に気づかせる指導に取り組む必要がある。


 大学教育関係者の間で最近、危機感も広がってきた。文部科学省は来春から大学・短大の教育課程にキャリアガイダンスを義務付ける。具体的内容は現場に委ねられるが、「職業指導という名の授業」では意味がない。企業や様々な仕事のプロと連携して学生の意識を高めてほしい。


キャリア教育は不可欠


 職業観や勤労観をはぐくむには大学からの指導では遅い。こういう反省機運も教育界から出てきた。高校、あるいはもっと早く小中学校の段階から、将来の生き方や職業選びを考えさせる「キャリア教育」の試みが全国に広がりつつある。


 制度面でも、中央教育審議会の特別部会が、実践的な職業教育に特化した新しいタイプの学校を創設するよう求めるなど改革案が浮上しはじめた。新タイプの職業学校は高卒者を対象に、IT(情報技術)分野などの人材育成を担うという。


 従来の専門学校との違いなど制度設計はこれからだが、戦後ずっと続いている「6・3・3・4」の単線型の学校体系を見直す契機になるかもしれない。適性も興味関心も多様な現代の若者の新しい受け皿になるよう、知恵を絞ってもらいたい。


 親の意識改革も求められる。高校進学者の約7割が普通科に進むが、その背景には「とりあえず無難だから」という保護者の思いがあろう。


 「とりあえず」普通科に進み、目的意識もなく大学に入り、結局は就活に膨大な時間を費やす――。こんなコースばかりでは、生き生きとした人材は生まれない。若者の就職難の根っこには、硬直的な採用慣行や教育システムがある。企業も学校も改革に踏み出すときだ。

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未来の教室―情報化で学びが変わる 2010/08/18朝日社説

 202X年、ある小学校の教室。



 ――先生が電子黒板に触れるたび、モニターの音声つき動画が次々切り替わる。子供の机にあるのはかさばる教科書でなく、iPadのような、あるいはもっ と薄型の情報端末だろうか。校内には無線LANが張り巡らされている。ネットで調べ、タッチペンで書き込む。先生が「A君の解き方を見てみよう」と映し出 す――。



 ICT(情報通信技術)化という大波が、学校現場に押し寄せようとしている。



 小中高校に配備されたコンピューターは現在、子供6.4人当たり1台。政府はそれを2020年度までに1人1台にする目標を打ちたてた。総務省、文部科学省それぞれの実証研究が、各地のモデル校で始まる。



 デジタル教材・教科書の研究開発も急ピッチだ。先月末には、情報通信や教育関連企業による協議会が発足。ソフトバンクの孫正義社長は「通信代はタダ。我々も応援します」とぶちあげた。市場は大きく、いろんな思惑が超高速で駆けめぐっている。



 大切なことを忘れてはならない。ICT化によって子供たちの「学び」がどう変わるか、ということだ。



 東京都日野市教委は早くから態勢を整え、パソコンのグループウエアソフトを使った授業に取り組んできた。たとえば班ごとに理科実験の様子をデジカメで撮 り、載せる。すると他の班の子が「うちの班はこうだよ」と意見を書き込む。「へえ、そうかあ」とヒントをもらった子がまた考える。



 ネットワークでつながった子同士が互いに学び合い、高め合う。遠くの学校との共同授業もできる。そんな可能性を広げるツールになると、同市立平山小の五十嵐俊子校長は強調する。



 教える内容をわかりやすく示せるのはもちろんだ。一人一人の学習の履歴を把握でき、それに応じて指導もきめ細かくできる。新しい学びのカタチをしっかり描きつつ、コンテンツやハードの整備を進めるべきだろう。



 じゃあ、コンピューターが子供に教えてくれるのか。そもそも教師なんか要らなくなるのか。「紙とエンピツ」世代からは懸念も聞こえてくる。



 そんなことはない。ネットの向こうの膨大な「知」から必要な情報を探し出し、編集し、どう発信するか。ネットは現実をどんな風に映し、五感で感じる現実とどう違うのか。情報とのつきあい方、使いこなし方を身につけさせるのは、やはり先生の仕事だ。



 何より、ネットで限りなく世界が広がるとしても、顔をつきあわせ、言葉を交わすコミュニケーションこそ、生きる力を養うのには欠かせない。



 ICT化が進むほど、リアル教師の役割は大事になる。教員養成課程や研修でのサポートも必要だろう。


http://www.asahi.com/paper/editorial20100818.html?ref=any#Edit2

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政府・日銀は円高加速に機動的対応を 2010/8/5付 日経

2010年8月6日金曜日

 円高が進んでいる。東京外国為替市場で円は1ドル=85円台と昨年秋以来の高値をつけた。景気の先行きを懸念し、10年物国債の利回りでみた長期金利も1%を下回った。

 デフレ下の円高は日本経済に重荷になるばかりか、企業活動を海外に追いやり、国内の雇用を失わせる要因にもなりかねない。政府・日銀は警戒を緩めず、機動的に対応できる態勢を整えておくべきだ。

 円は1995年4月につけた最高値である1ドル=79円75銭に迫っているが、実勢はどうか。世界中で販売されている「ビッグマック」の各国での値段を比べて、英誌「エコノミスト」が円・ドル相場の理論値(購買力平価)を試算したところ1ドル=85円台だった。

 購買力平価は幅を持ってみる必要があるにせよ、今の円相場は95年の時ほど著しく経済実勢からかけ離れているとはいえない。企業は比較的冷静で、4~6月期決算を発表中の上場企業は90円台だった想定レートを80円台後半に修正しつつある。

 とはいえ、現在の水準から一段の円高が進むようだと、日本経済に負の影響を及ぼしかねず、注意が怠れない。消費者物価指数の前年比はなおマイナスだ。そんななかでの円高は、輸入物価の下落を招きデフレからの脱却を一層難しくする。

 企業が円高に適応しているといっても、大手製造業を中心に海外生産・海外販売の比重を高めてしのいでいる面が大きい。円がさらに上昇すれば、成長力の低い国内を見捨て海外に走る動きが加速しかねない。

 雇用のすそ野の広い製造業による生産の海外移転は、国内の雇用を失わせる要因となる。介護などのサービス業で雇用をつくるといっても、賃金 水準が相対的に下がる可能性が大きいことは覚悟する必要がある。企業の海外拠点からの受取利息や配当は日本経済を下支えするにせよ、雇用創出効果は小さ い。

 この海外移転を抑えるには、労働規制の強化をやめ、法人税を下げるとともに、円高の行き過ぎに歯止めをかけることが欠かせない。

 円高が加速する局面では、日銀が一段と金融を緩和することも必要になってこよう。米国など海外の理解を得たうえで、円売り・ドル買い介入を実施するとともに、介入で供給した円資金を市場に放置する「非不胎化介入」が必要になる場面があるかもしれない。

 政府・日銀は経済のリスクを先取りし、機動的に動くとの心証を市場参加者に与えるとともに、経営者心理の下振れ防止に努めるべきだ。

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菅新政権の「脱小沢」の看板は本物か 2010/6/8付

2010年6月11日金曜日

 菅直人新首相(民主党代表)の下での民主党役員人事が決まり、8日に発足する新内閣の全閣僚の顔ぶれも固まった。

 党務を担う幹事長には枝野幸男行政刷新相を起用した。小沢一郎前幹事長が廃止した政策調査会長ポストを復活し、玄葉光一郎氏を充てた。枝野、玄葉両氏はともに、小沢氏に批判的な「七奉行」の一員だ。

 同じ「七奉行」の仙谷由人氏の官房長官就任と合わせ、菅新首相は閣僚・党役員人事で「脱小沢」を強く印象づけた。一連の人事を好感し、各種世論調査で、民主党への支持率は急回復しているが、新執行部は懸案の小沢氏の国会招致問題などで実行力が問われる。

 小沢氏批判の急先鋒(せんぽう)だった枝野氏の幹事長起用には、小沢氏に近い議員だけでなく、菅グループからも異論が出ていた。しかし菅新首相は「選挙の顔」として、枝野氏の起用にこだわった。

 弁護士出身の枝野氏は論客として知られる。46歳の若さもあって、テレビの討論番組などで民主党の出直しを訴えるには適任だろう。ただ選挙や国会対策の手腕は未知数だ。

 玄葉政調会長は、小沢氏に党政調の復活を求める運動の中心メンバーだった。政調が廃止された小沢執行部では、党内の政策論議がなく、幹事長室に権限が集中していた。

 玄葉氏は公務員制度改革担当相を兼務して入閣する見通しで、内閣の政策決定に党の意見を反映させる新たな仕組みづくりを担う。小沢氏という重しがなくなったため、寄り合い所帯とやゆされる党内の多様な意見をまとめる力量が求められる。

 菅新首相は代表選で争った樽床伸二氏を国会対策委員長に充てるなど、党内融和にも腐心した。しかし野田佳彦新財務相、蓮舫新行政刷新相や安住淳党選挙対策委員長ら他のポストの顔ぶれを見ても、小沢氏に距離を置く議員の重用が目立つ。

  鳩山政権が退陣した理由の一つは、鳩山由紀夫首相や小沢氏の「政治とカネ」の不祥事で、有権者の信頼を失ったことにある。とくに小沢氏は元秘書ら3人が政 治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で起訴されたにもかかわらず、国会で説明責任を果たしていない。野党側が小沢氏らの国会招致を求めるのは当然だ。

 枝野氏は小沢氏の政治倫理審査会出席問題について「本人の希望がベース」と述べ、慎重な考えを示した。しかし、それが許されるのか。枝野執行部が小沢氏の国会招致に取り組まなければ「脱小沢」の看板もすぐに色あせてしまうだろう。

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法科大学院 理念倒れの現状を改革せよ(6月6日付・読売社説)

 法律家の養成機関としての役割を担えない法科大学院は淘汰(とうた)される。それは、やむを得ない流れといえるだろう。

 兵庫県姫路市の姫路独協大法科大学院が、2011年度以降の学生募集を停止することを決めた。現在の在校生17人が修了する時点で、大学院を廃止する見込みだという。

 修了すれば新司法試験の受験資格が得られる法科大学院は、04年に各地で開校したが、撤退が決まったのは、今回が初めてだ。

 姫路独協大法科大学院の修了生で、新司法試験が始まった06年から09年までの合格者は全74校中、最少の3人にとどまっている。

 合格者が出なければ、学生も集まらなくなる。10年度入試では、定員20人に対して、受験者が3人で、いずれも不合格だった。

 教授会が「法曹界で活躍できる学生の確保は困難」と判断したのも、うなずける。法科大学院の乱立が招いた結果である。

 新司法試験の合格率は昨年、3割を切った。実績を残している大学院と、そうでない大学院との二極化が鮮明になってきている。下位校では、姫路独協大と同様の状況に陥りつつある大学院も少なくないだろう。

 入学志願者が減り、定員を削減した大学院も多いが、これは対症療法に過ぎない。今後は、適正な大学院数にするための統合や再編も避けられまい。

 法学部出身者に限らず、幅広い分野から法曹界に人材を集める。即戦力の法律家を養成する。こうした目的で、法科大学院が開設され、実務教育を重視したカリキュラムが組まれている。

 しかし、大学院の授業だけでは司法試験に合格できないとして、予備校に通っている大学院生が多いのが実情だ。

 一方で、大学院側が合格率の向上を目指し、試験対策に特化した教育をすると、評価機関から「不適合」の烙印(らくいん)を押され、改善を迫られる。法科大学院の理念に合致しないとの理由からだ。

 今後、評価のあり方を再検討し、型にはめた法科大学院の教育内容に、ある程度の自主性を認めることが肝要だろう。

 新司法試験の内容の見直しも不可欠である。詰め込み型の試験教育を受けないと、合格が難しいのであれば、旧司法試験の時代と変わらない。

 司法制度改革の柱の一つとして導入された法科大学院制度だが、(ゆが)みを早急に正さないと、その存在意義が問われることになる。

2010年6月6日01時43分 読売新聞)

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菅新首相は政策本位の政権運営目指せ 2010/6/5付

 民主党の菅直人氏が第94代首相に選出された。週明けにも組閣し、菅新内閣が発足する。

  昨年の衆院選の民主党マニフェスト(政権公約)では、財源の裏付けのない子ども手当の創設など、当面の選挙対策を優先した政策が目立った。鳩山政権発足後 も小沢一郎幹事長の選挙至上主義が、政策決定をゆがめた側面は否めない。菅新首相の誕生を機に、政策本位の政権運営に転換するよう強く求めたい。

党政調の復活は当然だ

  鳩山由紀夫首相はわずか8カ月半で退場した。鳩山氏は5月末に米軍普天間基地の移設問題を決着させるという約束を果たせず、社民党の連立離脱を招いたこと もあって、引責辞任に追い込まれた。鳩山、小沢両氏の「政治とカネ」の不祥事も響いた。菅新首相は有権者の信頼を取り戻し、統治能力のある政権の体制を整 える責任を負う。

 その際に重要なことは小沢氏の影響力を排除することである。鳩山氏は党務を完全に小沢氏に委ね、代表であるにもかかわらず党運営の蚊帳の外に置かれていた。

 党内では小沢氏が最高実力者と目されていた。内閣の下での政策決定の一元化という建前とは裏腹に、重要政策の決定に小沢氏が介入することもあった。党側の横やりで方針が二転三転した高速道路の新料金制度の迷走などを見れば、その弊害は明らかだろう。

  菅氏は4日の記者会見で内閣・党役員人事について「官邸の一体性、内閣の一体性、党の全員参加を目標にする」と述べるにとどまった。ただ3日の出馬記者会 見では小沢氏と距離を置く考えを示しており、内閣の要の官房長官には仙谷由人氏を起用する意向だ。仙谷氏は小沢氏に批判的な勢力の中心人物である。

  鳩山政権の政策決定が迷走した大きな理由は、鳩山氏の指導力不足とともに、首相官邸の調整力が弱かったことにある。菅新首相は閣僚に明確な指示を出して、 内閣の政策決定を主導してほしい。民主党が政権公約で掲げた閣僚委員会はほとんど機能しておらず、仙谷新官房長官の調整能力が試される。

  菅新首相は小沢氏が廃止した党政策調査会を復活させる考えを示している。政党が政策を議論する組織を持つのは当然であり、政調の復活を評価したい。小沢氏 一人が突出した存在だった党運営を改める象徴的な出来事といえる。民主党が当初、構想していたように政調会長が閣僚を兼務するのが筋である。

 鳩山政権では、経済財政担当を兼務した菅氏が、経済政策の司令塔を務めねばならない立場だった。しかし菅氏自身は、その経歴からみても適任だったとは言い難い。新政権では経済政策の司令塔役を誰に委ねるかが課題になる。

 政治主導の掛け声の下に、各省の政策決定は政務三役が中心になる体制に改められた。政治家が政策決定の責任を負うのは当然だが、省庁が蓄積したデータや官僚をうまく活用していない。政務三役には官僚を生かす度量がほしい。

  菅氏を代表に選んだ党代表選は政策論争がないまま終わった。4日の記者会見でも、菅新首相からは新政権のメッセージがほとんど伝わってこなかった。菅氏は 「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体的に実現する」と強調しているが、将来の消費税の取り扱いなどを早急に肉付けし、具体案を示す責任がある。

政権公約の見直し急げ

 夏の参院選は迫っているが、菅新首相は党内で集中的に議論したうえで、自らの考えを参院選の公約に反映させなければならない。鳩山政権が準備した公約の中身をそのままにして、ただ表紙の顔を変えるだけでは有権者の理解は得られまい。

 鳩山首相は対米外交でつまずいた。この教訓を生かし、亀裂が生じた日米同盟の立て直しが急務だ。菅新首相は日米関係を外交の基軸にすえると同時に、中国との関係を重視する考えを示している。日米と日中を並列に置くようにも受け取れる。

 台頭する中国と良好な関係を築くことが、日本の最優先課題のひとつであることは確かだ。しかし日中間には東シナ海のガス田開発問題などの火種がくすぶり、中国の軍拡はアジア諸国の懸念を招いている。

 中国に責任ある行動を促し、安定した日中関係を築くには日米同盟の後ろ盾が必要である。菅新首相は普天間基地移設をめぐる先の日米合意を着実に実行し、対中政策でも日米が緊密に協調できる関係を築いてもらいたい。

 韓国哨戒艦の沈没事件を受け、緊迫する朝鮮半島の情勢からも目が離せない。鳩山政権は独自制裁の強化を決め、北朝鮮に圧力を加える姿勢を鮮明にした。この路線は北朝鮮側からの軍事挑発にも対応できる体制があって初めて成立する。新政権には万全の危機管理を求めたい。

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グーグルに復活賭けるソニー 日経 2010/5/24付

2010年5月26日水曜日

 ソニーはネット家電や携帯端末の開発で米グーグルと提携すると発表した。インターネット経由で映像を楽しめる次世代テレビを開発し今秋にも発売する。音楽や映像のネット配信で先行する米アップルに対抗する狙いで、地盤沈下が続く日本の家電メーカーの巻き返し策といえる。

 両社の計画では、ソニーがグーグルの基本ソフト(OS)をテレビに採用し、動画配信の「ユーチューブ」など様々なグーグルの情報サービスをテレビで利用できるようにする。ソニーはすでに携帯電話でグーグルのOSを使っており、他の家電分野にも広げる戦略だ。

 ソニーがグーグルと組む背景には映像が見られるアップルの多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」の登場が見逃せない。ソニーは携帯音楽プレーヤーの市場をアップルに奪われた経験から、映像分野ではグーグルと一緒にネット配信基盤の主導権を握ろうとしている。

 グーグルにとってもソニーとの提携は渡りに船だ。アップルは情報配信から端末開発まで自社で行うが、グーグルには製造部門がない。ソニーと組めば、アップルのような垂直統合型の事業を構築しテレビやゲーム市場にも進出できると考えた。

 実は音楽や映像の情報配信基盤はすでに4つのグループに集約されつつある。独自路線を行くアップル、米マイクロソフトと米ヤフー、フィンランドのノキアと米インテル、それにグーグルだ。日本企業は後じんを拝しており、ソニーは提携によりその一角に入ろうとした。

 ソニーは2010年3月期決算で2期ぶりに黒字化したのを受け、かつての「ウォークマン」のように価格競争に左右されにくい、ソニーらしいユニークな商品作りを復活させようとしている。消費者としても期待されるところである。

 ただ、ネット家電に他社のOSを使うことは、パソコンのOSをマイクロソフトに依存するのに似て、危うい面もある。提携によって主導権をグーグルに奪われれば、かえって収益性を損なう恐れもあろう。

 今回の提携は評価できるが、結果はまだ先。人々の生活を変えるような新製品の開発と収益性確保の両立は決してたやすい話ではない。

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新産業発掘は日銀の仕事か 日経 2010/5/23付

 日銀は自ら資金を供給し新産業の発掘や育成に乗り出す。一見、経済成長へ強い援軍の登場のようだが、中立的な立場から物価、景気、金融システムの安定を担う中央銀行の役割を逸脱する心配もつきまとう。

 日銀は資金の流れをゆがめたり、特定の産業や企業を過度に優遇したりしないよう、慎重に対応すべきである。そもそも規制緩和や減税を通じて企業が伸び伸びと経営できる環境を整えるのは政府の仕事のはず。日銀が本業以外の仕事に乗り出さずに済むよう、政府はまっとうな成長戦略を早く固めるべきだ。

 日銀は4月の金融政策決定会合で「日本経済の成長力を取り戻すために、民間金融機関の投融資を資金面から支援する」という方針を決め、具体化を急いできた。

 21日に固めた骨子によると、金融機関から成長基盤強化の取り組みを聞き、日銀がその金融機関に資金を1年間貸し付ける。年0.1%という低金利を適用し、借り換えにも応じる。金融機関は事実上数年間にわたり有利な資金調達が可能になる。

 成長分野について、日銀は環境、エネルギーや技術力の高い企業などを例に挙げるが、白川方明総裁は「政府の成長戦略の議論も参考にする」という。日銀は「自らは融資の目利き能力がないので民間銀行と緊密に意見交換する」としている。

 特定の業種に低利の資金を流せば民間企業の公正な競争をゆがめかねない。成長産業とはみなされない業種でも、企業が革新的な技術を開発して事業拡大を目指すような場合にその芽をつぶしてはならない。

 産業育成に関連した資金供給は基本的には日本政策投資銀行などに任せればよい。日銀が張り切ると、中央銀行の中立性を損ねたり、場合によっては不良債権の発生に手を貸したりする結果ともなりかねない。

 日銀が今、中央銀行として果たすべき役割はデフレを一刻も早く克服し、日本経済を自律的な回復軌道に乗せることだ。そのために政府と足並みをそろえることこそが大切だ。政府は規制緩和や減税などの成長政策、日銀は金融政策を担う。政府は日銀に必要以上の仕事を押しつける結果とならぬよう、内容のある新成長戦略の具体化を急ぐべきだ。

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電気自動車でも主導権を握るためには 日経2010/5/23付

 トヨタ自動車は電気自動車の米ベンチャー企業、テスラ・モーターズに約2%出資し米国で電気自動車の共同開発や生産に乗り出す。

 トヨタがこれまで環境対応車の主軸に位置づけてきたのは、ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせたハイブリッド車だった。

 今回、電気自動車にも力を入れていくと表明したことは、自動車産業がガソリン車から電気自動車の時代に移るきっかけになる可能性がある。二酸化炭素の排出削減を考える上でも影響が大きい。

 トヨタにとっては米国でのイメージ回復という狙いもあったかもしれない。800万台に及ぶリコール(回収・無償修理)問題では社会的評価と業績の両面で打撃を受けた。ゼネラル・モーターズとの合弁工場を閉鎖すると決めた際も世論の風当たりは強かった。テスラとの共同事業ではこの工場の一部を使うという。

 とはいえトヨタがこの時期に電気自動車への本格的な参入を打ち出す意味は大きい。最大の自動車市場となった中国や韓国では電気自動車の心臓部となるリチウムイオン電池の開発などで新興企業が相次ぎ生まれ技術力を高めつつある。

 米国ではオバマ政権が自ら主導し電池技術などを持つ企業への資金支援を打ち出した。インターネットの民生利用に成功した1990年代末と同様、国の技術を有望な事業に転用しようとする動きもある。

 日本も力のある企業が出てきてはいる。だが、電気自動車を次の時代の主軸に位置づけ、実用化を計画している自動車大手は日産自動車など一部に限られる。百年に一度といわれる技術の移行期に出遅れる懸念さえ指摘されていた。

 トヨタが提携するテスラは設立から7年の若い企業だが、その製品は米国で徐々に支持を集めている。自動車生産の規模や実績ではトヨタが上でも、日本の自動車がどうしたら米国市場で再び成功できるか、吸収すべき要素は多い。

 並行して検討すべきは自動車産業の構造転換だ。日本の自動車産業は部品メーカーも合計すると100兆円に達する。「構造が簡単で部品の数も少なく、電機メーカーが部分的には強みを持つ」という電気自動車がもし広く普及するようになれば、今の自動車産業への影響は甚大だ。

 ガソリン車の量産開始から2世紀めに入った自動車産業で、日本企業は今後もトップグループにいられるか。試されるのはそうした大きな問題だ。電気自動車に本格的に手をつけ始めたトヨタへの期待は大きい。

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企業決算 本格回復への道は半ばだ(5月17日付・読売社説)

2010年5月21日金曜日

企業業績はV字回復でどん底を脱した。だが、先行きは不透明で、本格的な回復への道はまだ半ばだろう。

 東証1部上場企業の2010年3月期決算の発表がピークを迎えた。上場企業全体の税引き後利益は、2期ぶりに黒字に転換する見通しだ。

 一昨年秋のリーマン・ショックと世界不況に直撃された昨年3月期決算は、主要企業が巨額赤字に転落し、戦後最悪だった。

 2期連続の赤字を覚悟した企業も多かったが、実際には、黒字に転換したり、赤字を大幅圧縮させたりした企業が相次いだ。

 全体の約3割が、リーマン・ショック前の税引き後利益の水準を回復した。予想以上に早く、各企業が業績悪化に歯止めをかけ、試練を乗り切ったと言えよう。

 最大の原動力は、リストラやコスト削減の徹底だ。売り上げが減っても利益が出せるよう、体質を絞った結果、上場企業全体の売上高は前期比で減少しながら、利益が増える減収増益を実現した。

 業種別では、世界不況からいち早く脱した中国などの新興国市場向けに、輸出を増大させた自動車と電機が牽引(けんいん)役になった。

 自動車やデジタル家電の販売を支援する各国政府の景気刺激策も追い風に生かしたのだろう。

 利益を倍増させたホンダが代表例だ。トヨタ自動車も2期ぶりに黒字を確保し、復活した。前期は巨額赤字の日立製作所も、黒字化が視野に入ってきた。

 一方、小売り、不動産、商社などの非製造業は苦戦し、業績の回復にはばらつきがある。

 資生堂は、アジア市場に活路を求める戦略強化を打ち出した。内需型の企業も、外需をいかに取り込むかが重要だ。

 だが、企業の経営環境はまだまだ厳しい。今期の業績に慎重な企業が多いのも当然だろう。

 世界景気は持ち直してきたが、ギリシャ危機をきっかけに不安が再燃した。欧州経済の低迷が長期化すると、世界全体に波及しかねない。日本にとっても、急激な円高・ユーロ安は、輸出企業の採算を悪化させる。

 各国政府がとった景気刺激策の効果も剥落(はくらく)しつつあり、鉄鉱石などの値上がりも懸念材料だ。

 各社は、業務の「選択と集中」を一層加速し、財務基盤を強化しなければならない。

 リストラ主導では限界がある。新たな成長市場を開拓し、競争力ある製品を生み出すなど、「攻め」の姿勢が肝要である。

2010年5月17日01時27分 読売新聞)

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人材立国ふたたび(最終回)異能や奇才を発掘し、育て、生かそう 日経 2010/5/17付

 アニメなどの日本文化を産業化しようとする試みが盛んだ。独創性や創造力がカギになる。異能の人物や奇才をどう発掘、活用するか。生きた文化が勝負の異能経済では何が花開くか予測できない。才能の自由市場こそが求められる。

 埼玉県久喜市の鷲宮神社に今年、45万人の初詣で客が訪れた。4年前の5倍に増えた理由は、女子高校生の日常を描くテレビアニメ「らき☆すた」。中心となる4人組のうち2人が神主の娘という設定で、モデルになったこの神社も毎回登場する。

自動車ショーに匹敵

 このアニメは「Lucky Star」の題でインターネットを通じ海外にもファンを広げた。ファンが登場人物を描いて神社に奉納した絵馬には、英語や中国語、韓国語の書き込みも珍しくない。

 かつて米国は映像文化を通じて米国のライフスタイルを世界に浸透させた。ホームドラマを見た日本人は大型冷蔵庫やマイカーにあこがれ、青春映画を通じコカ・コーラやジーンズにしびれた。ジャズやロックにもなじみ、ニューヨークやロサンゼルスをいつか観光したいと願った。

 いま日本のアニメや漫画は、当時の米国映画と同じ位置にある。パリで毎夏開かれる漫画やアニメの見本市「ジャパンエキスポ」に、昨年は16万人が集まった。米国やアジアでも同じような催しが人を集める。

 アニメ人気はファッションにも波及し始めた。作品に登場する服を扱うネットの通信販売では、1~2割が海外からの注文という店もある。キャラクター商品の代表「ハローキティ」をあしらった雑貨もアジアや欧州の女性たちが愛用する。

 文化の競争力を支えるのは人材だ。若者が才能を発揮できる場が欠かせない。同人誌や自作模型の即売会は日本各地で盛り上がり、海外からの参加者も多い。出版社や雑貨会社もここで人材を探す。ある漫画同人誌の即売会は56万人を集め、東京モーターショーの62万人に迫る。

 自由と創造性が成長につながるのは、出版やファッションなど一部の文化系産業だけではない。

  米国の都市経済学者リチャード・フロリダ氏は「国や企業の競争力の源泉は人々の創造性だ」と分析する。映像・デザインから商品開発、科学、金融まで、創造 性にあふれる人を世界中から集めた米国。従業員が「カイゼン活動」を通じ、最大限の創造性を発揮したかつてのトヨタ自動車。これらはその好例という。

 今の日本企業は手元の「才」を十分に生かしているだろうか。

  iPodなどのヒット商品を生んだ米アップルはデザインを競争力の柱に据える。少数精鋭のデザイン部門に勤める西堀晋氏は、かつて松下電器産業(現パナソ ニック)の社員だった。独創的なラジカセなどを世に出したが、1998年に退職。京都でカフェを経営しつつ個性的な音響機器や生活雑貨を作る中でアップル にスカウトされ、渡米した。

  日本人デザイナーが日本企業から安い料金で受注しようと上海にデザイン事務所を構えたら、実際には「高額を払っても日本人による質の高いデザインを求めた い」という中国企業からの注文が増えた。デザイン部門を日本の大手企業が縮小する一方で、韓国のサムスン電子などは強化している――デザイン産業の動向に 詳しい紺野登・多摩大学大学院教授は、こう警鐘を鳴らす。

成長の種を捨てるな

 創造性を生かした成功例はもちろんある。昔風の外観で当たった日産自動車の「キューブ」。開発では、女性担当者が技術者を連れ、原宿の若者を見せて回った。「速い」車を作りたい技術者に、最近の若い男性の「のんびり」志向を服やふるまいから感じ取ってもらったのだ。

  資生堂の化粧品「マジョリカマジョルカ」は10代後半から20歳前後の女性に支持された。魔法や魔女を主題に、中世の紋章のような模様をつけ、名は呪文 (じゅもん)風。透明感と高級感を訴える通常の化粧品の売り方とは逆だ。幻想小説に通じる印象は20代の女性社員が中心となってつくった。

  書店チェーンのヴィレッジヴァンガードコーポレーションは、若い店員に本と雑貨を組み合わせた売り場を自由奔放に作らせる。飲食店経営のダイヤモンドダイ ニングは、店長予定者らのひらめきをもとに店名や料理を決めている。若者の本離れや外食業不振の中で、両社とも増収増益を続けている。

 単発的なヒットや新進企業の取り組みをどう広げるか。長期停滞といわれる時代に、内外でかえって日本人の創造性に関心が高まった。せっかくの好機を生かす企業の知恵が問われる。

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みずほの「次の10年」の行方  日経2010/5/16付

 総合金融大手のみずほフィナンシャルグループが、普通株による8000億円の増資を発表した。経営の改革案やグループの3会長の退任も公表することにより、みずほの変わる姿勢を示そうとした。変身できるかどうかは資本の充実だけでなく、グループの融合にかかっている。

 増資の背景には、銀行の自己資本比率に関する新規制がある。バーゼル銀行監督委員会は、融資などのリスク資産に対して、配当を機動的に減らせる普通株や利益蓄積などで構成する「狭義の自己資本」を、厚く積むよう求める方向だ。

 リーマン・ショック以降、三菱UFJと三井住友の2グループは2回の普通株増資に踏み切った。みずほは09年7月に次いで今回が2度目。自己資本が厚くなれば、資本規制が強化されても、企業に成長資金を供給する機能を保つことができる。

 株式市場が不安定な中で円滑に増資を進めるには、中期的な成長の見取り図の提示が欠かせない。改革案は3年間で連結最終利益を2倍に増やす計画を打ち出した。目標を達成するには、収益の見込める分野に機動的に打って出られるよう、グループ経営の無駄をなくす必要がある。

 持ち株会社の前田晃伸会長、みずほコーポレート銀行の斎藤宏会長、みずほ銀行の杉山清次会長が退任する。それぞれ旧富士銀行、旧日本興業銀行、旧第一勧業銀行の出身だ。旧3行の実力者が長く経営にとどまっては、融合も進めにくい。

 3会長の退任は、経営の効率を高めるきっかけになりうる。管理部門やIT(情報技術)システムなど目に見えにくい部分だけでなく、傘下の2つの銀行の統合を検討する時も近づいているのではないか。

  旧3行が今の持ち株会社の前身「みずほホールディングス」を設立したのは、10年前だった。世界有数の規模を誇る金融グループの誕生は、個人から大企業ま で幅広い金融サービスを提供し、経済の活性化につながると期待された。03年に多くの取引先が総額約1兆円の増資に応じたのも、そうした気持ちの表れだ。

 旧3行の個別の利害を超えた経営の実現は、当時から指摘された課題だ。みずほが次の10年に踏み出す今も、まったく同じことが言える。

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光回線の利用拡大へ規制や料金を見直せ 日経 2010/5/16付

 鳩山政権の情報通信政策が動き出した。IT(情報技術)戦略本部が国民番号制度などを軸とする新戦略を策定し、総務省も光回線を全世帯に広める「光の道」構想の具体案をまとめた。情報通信分野は日本の経済成長を促す要の一つであり、着実に成果をあげる必要がある。

 IT本部の新戦略は、電子政府を広め、環境やエネルギー分野などに情報技術を活用する方針を掲げた。年金など自分の情報を個人が管理できる番号制度を導入し、2013年までに国民の半数以上がコンビニや郵便局などの行政端末で様々な電子手続きができるようにする。

 総務省が掲げる「光の道」では、15年までに光回線などの高速ネット環境を全世帯に普及させ、医療や教育分野などへの利用を促す。山間部など商用サービスが難しい地域には公的な資金も投入する考えだ。

 だが、高速ネットの利用を増やすには、インフラ整備に加え、それを使った新しいサービスをつくり出す必要がある。すでに全世帯の9割が光回線を利用できるのに、契約者が3割にとどまっているのは、動画を見る以外に高速ネットを必要とするサービスが見あたらないからだ。

 光回線を使えば、遠く離れた場所を結んだ医療や教育、在宅勤務などができるようになる。ところが、法律で対面の手続きを義務づけているなど規制が多く、光回線の活用が遅れている。もっと使えるようにするために、法改正も含めた規制緩和を並行して進める必要がある。

 通信料の引き下げも重要だ。光回線の利用世帯は1700万を超えたが、ADSLも1千万世帯ある。ADSLは送り手側の速度が遅く、医療や教育など双方向でたくさんの情報を送るには適さない。ADSLから光への転換を進めるには、料金の大幅な引き下げが不可欠だろう。

 総務省は光回線の料金を下げるため、基幹通信網から家庭までの接続網をNTTから切り離す案も検討した。結論は1年先送りとなったため、NTTには光回線の敷設・運営コストを開示させ、経営改善による料金引き下げを求めるべきだ。

 すべての世帯が高速ネットを利用できるようにするには、高速無線技術などの手段も重要だ。電話はNTTに全国一律のサービスを義務づけており、不採算地域のコストは基金を通じ通信事業者全体で負担している。高速ネットに同様な措置を導入することも、一案だろう。

 日本が得意とする光通信の分野で世界を先導するには、利用をもっと促す知恵と方策が要る。

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43歳に明日を託した英国  日経2010/5/15付

 英国の総選挙を受けて誕生したキャメロン新政権が、沈滞していた同国の空気を変えつつある。国内では政権発足の翌日に、中央銀行総裁から歳出削減への支持を取りつけ、米英外相会談でイランの核問題を協議することも決めた。

  英国民が選択したのは政治指導者の「若さ」である。第1党となった保守党のキャメロン党首と、副首相に就任した自由民主党のクレッグ党首は、ともに43 歳。敗れた労働党のブラウン前首相は59歳だ。各党の政策の違い以上に、指導者の新鮮さが勝敗を左右したとみるべきだろう。

 キャメロン氏は、就任時に44歳直前だったブレア元首相を抜き、19世紀初頭のジェンキンソン首相以降で最も若い英国の首相となる。

 新閣僚の顔ぶれも若い。38歳のオズボーン財務相を筆頭に、ヘイグ外相が49歳、フォックス国防相は48歳である。経験が必要な分野にベテランを配しながら、政権の中核は30~40代が担っている。

 新政権に課題と不安が多いのは事実だ。財政赤字を減らす具体的な方策では、保守党と自民党の意見調整は簡単ではない。選挙制度改革をめぐる対立点も残っている。欧州連合(EU)との関係についても、両党の基本的な立場に隔たりがある。

 同床異夢の連立政権を運営していくには、さまざまな困難が伴うだろう。だが、今回の政治の世代交代によって、金融危機後に閉塞(へいそく)感が漂っていた英国社会に明るい変化が出ることが期待できる。

 国民が政治の刷新を求めたのは、日本も同じである。しかし、若返りを果たした英国とは対照的に、昨年9月に発足した当初の鳩山内閣の閣僚平均年齢は60歳を超えていた。

 次世代の活躍を待望する声が多くても、安心して政治を委ねられる若手が見あたらない。常に新しい指導者を育てながら、必要な局面での世代交代に備える。そんな新陳代謝の仕組みが、日本の政界に欠けているのではないか。

 若さは時に経験不足を意味する。だが、過去のしがらみや成功体験にとらわれないからこそ、時代が要請する改革を実行できる場合もある。政党政治の歴史を築いてきた英国から、日本が学ぶべき点は多い。

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読売経済提言 政策を一新し停滞を打開せよ(5月7日付・読売社説)

2010年5月8日土曜日

 経済効果の少ないばらまきで財政を悪化させ、成長回復に向けた確かな処方せんもない。鳩山政権による経済運営の無策ぶりは、もはや看過することができない――。

 経済政策を大転換するよう求めた読売新聞の緊急提言は、こうした問題意識に基づいている。

 選挙の勝利を優先する大衆迎合政治と、マニフェスト(政権公約)至上主義が、鳩山政治の最大の問題といえよう。

 21世紀を通じて日本の経済社会を安定させ、持続的な成長が可能となるよう、鳩山首相は本社提言に沿った責任ある経済政策を実施すべきである。


 ◆公約が政治をゆがめる


 日本経済は、世界同時不況の荒波を乗り切り、ようやく景気が持ち直してきた。だが、つかの間の明るさに安心してはならない。

 マクロ経済全体で需要は30兆円足りない。物価に下落圧力がかかり、デフレが慢性化している。

 エコカー減税など、前政権が残した景気対策もそろそろ息切れして、今年半ば以降には成長が減速するとの見方も強い。

 今こそ、景気下支えに万全を期さねばならないのに、肝心の経済政策は的はずれだ。公共事業を罪悪視した「コンクリートから人へ」は、その典型といえる。

 今年度予算で景気刺激効果の高い公共事業を2割も削った。公共事業を頼みとする地方経済への打撃は大きいだろう。

 反面、子ども手当など、ばらまき型給付に巨額の予算を割いた。家計への直接給付は貯蓄に回り、景気浮揚の即効性は期待しにくいのに、恒久的な財源のあてもないまま、公約実現を優先させた。

 交通網の高度化や学校の耐震化など、インフラ(社会基盤)投資は成長や生活の安全・安心につながる。無駄なハコ物と同一視せず、整備を進める必要がある。

 そのための財源確保の一策として、無利子非課税国債の活用はどうか。相続税を減免するものの利払い負担がないため、財政を悪化させることもない。約30兆円とされるタンス預金を吸い上げて必要な事業に使えば、一石二鳥の効果が期待できよう。


 ◆安心は雇用の安定から


 国民の最大の不満は「経済的なゆとりと先行きの見通しがない」ことだという。内閣府の世論調査で、ほぼ半数がそう答えた。

 手当をばらまくだけでは、不安は解消しない。働きたい人に仕事を用意し、自ら生計を立てられるようにすることが、安心の第一歩だ。雇用が安定すれば、消費拡大など経済活性化にもつながる。

 高齢化でニーズの高まる医療・介護分野は、雇用拡大の面でも有望だ。しかし、仕事がきついうえに、給料が安すぎるとして、現場を去る人が多く、慢性的な人手不足に陥っている。

 魅力のある仕事にするため、処遇改善が求められる。公費による支援の拡充などを図るべきだ。

 病気や高齢で働けない人を支える社会保障制度の強化も急がねばならない。制度の青写真をきれいに描いても、裏付けの財源がなければ絵に描いたモチだ。

 少子高齢化のため、黙っていても社会保障費は毎年1兆円ずつ増える。これを賄い、持続可能な制度に改めるには、税収の安定している消費税率の引き上げは避けられない。

 鳩山首相は「消費税率凍結」を撤回し、早急に具体的な論議を開始すべきだ。税率は現在の5%から、まずは10%への引き上げを目指す必要がある。


 ◆新興市場でどう稼ぐ


 日本の国際競争力や、1人あたりの国内総生産(GDP)は、1990年代前半には世界のトップクラスだった。しかし、今はともに20位前後に沈んでしまった。

 高齢化と人口減少で、今後ますます経済規模の縮小が進む恐れもある。衰退を防ぐには、まず外需でしっかり稼がねばならない。

 狙うべきは新興国で拡大する新たな中間所得層や、鉄道や発電などのインフラ整備だろう。

 昨年末、中東・アラブ首長国連邦(UAE)の原子力発電所建設をめぐる受注競争で、政府の全面支援を受けた韓国企業に日本勢が敗れた。官民が協力して新興国市場を攻略する新たな通商戦略を練らねばならない。

 中国をはじめとした新興国企業の台頭は著しく、日本企業の勝ち残りは容易ではない。現に、先行していたはずの薄型テレビで、韓国メーカーにシェア(市場占有率)を奪われている。

 海外よりも高い約40%の法人税の実効税率が企業の活力を奪っている。欧州や中韓なみの30~25%を目安に、引き下げるべきだ。

 省エネや環境など日本が得意とし、成長が期待できる分野の活性化が重要だ。投資・研究減税などで企業の努力を後押ししたい。

(2010年5月7日03時00分 読売新聞)

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欧州発の不信の連鎖を日本も直視せよ 2010/5/7 日経

 危機を抑えようと急いで決めた支援策が、皮肉にも欧州の不安を広げる誘い水となってしまった。

 欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)は資金繰りに窮したギリシャ政府への緊急の協調融資に合意した。2012年まで3年間の規模は1100億ユーロと日本円で13兆円を超す。1997年のアジア通貨危機以来の政府向け巨額支援だ。

 2日の支援発表後も世界市場は混迷を深めている。欧州に加えて米国やアジアの株価が軒並み下げ、連休明け6日の東京市場も日経平均株価の終値が先月30日に比べて361円安と今年最大の下げ幅になった。

 ギリシャが国債発行などで必要とする額に支援規模が足りず、実施の条件となる財政赤字削減も達成できないのではないか。市場はギリシャ支援にそんな疑いを強めている。

 首都アテネでは間接税の増税や公務員給与の削減に反対する市民のデモで死者も出た。急激な緊縮財政策は政治的な困難を伴い、当面の実体経済にもマイナスだ。支援策の実現はいばらの道である。

 助ける側の問題もある。多くの負担をかぶるドイツでは安易なギリシャ支援に世論の反発が強い。9日の州議会選を控えたメルケル政権の対応の鈍さも悪材料となった。

 「ギリシャの次」を探す市場の動きも止まらない。財政赤字のポルトガルやスペインでは国債利回りの上昇に加え、不動産バブルの崩壊による不良債権の損失が増え、独仏など欧州の大手金融機関の業績に響くとの見方も強まっている。

 単一の通貨で共通の金融政策を当てはめるが、予算や財政は各国の裁量任せ。そんなユーロ体制の危機を市場参加者は見抜きつつある。不信の連鎖をどう止めるのか、決め手はなかなか見当たらない。

 金融危機から立ち直り始めた世界経済を損ねないよう、欧州には大胆な対応が望まれる。

 欧州中央銀行(ECB)は「投機的」の水準に格付けが落ちたギリシャの国債を引き続き担保として資金供給すると決めた。個別国の特別扱いを認める路線転換だ。6日の理事会では国債買い入れなどの追加措置は議論しなかったが、危機の拡大阻止に全力を挙げねばならない。

 国内総生産(GDP)の1.8倍もの長期債務を抱える日本も、欧州の危機を直視すべきだ。豊富な個人金融資産のおかげで国債が円滑に消化できているが、市場発の財政不安は突然やってくる。ギリシャなどの混乱を反面教師に、財政健全化の道筋づくりを急ぐべきだ。

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引きこもり―SOSを見逃さぬために(5/7 朝日)

 愛知県豊川市で先月、10年以上自宅に引きこもっていた30歳の男が、家族5人を殺傷し、逮捕された。

 ネット通販の支払いが200万円を超え、困った家族がネット契約を切ったため、「腹が立った」という。

 そんなことで1歳のめいにまで手をかけたとは。男は中学時代、「おとなしい人だった」という。長い内向きの暮らしで、心はどう変わってしまったのか。暗然たる思いがする。

 引きこもりは、全国で30万人とも100万人ともいわれる。受験や就職などにつまずき、対人関係に自信を失ったのが、多くのきっかけというが、なかなか表面化しない。3月にも大阪市で男が父親を殺す事件が起きている。

 もちろん暴力的な事件に至ることはまれだ。大半は、いつ終わるのか分からないトンネルの中で、当事者も家族も耐えている、というのが実態だ。

 打開のチャンスは、経験を積んだ第三者がかかわり、閉じた空間を変えていくことだ。最近は各県の精神保健福祉センターに担当者が置かれ、NGOが居場所をつくり、親の会が次々につくられている。厚生労働省も近く対応ガイドラインを更新し、初期の段階で精神科医のかかわりを強める対応などの検討もすすめている。

 たとえば豊川市の事件の場合、警察の対応に何かが足りなかったとすれば、そうしたネットワークとの連携ではないだろうか。家族からネット通販の問題で相談を受け、警察官は自宅まで訪ねているし、通販対策として消費生活相談の窓口を紹介もしている。

 ただ、問題の根にある引きこもり対策までには踏み込まず、専門家につなぐことはなかった。結果として、本人にとって唯一の社会との接点にもなっていたネット自体を切ることを家族に提案した。

 専門家ならどうしたか。京都市で引きこもりの若者らの居場所を運営する山田孝明さんは、「ネットまで切らず、銀行口座の残額をゼロにして通販をできなくする方法を提案した」と話す。傷つきやすい本人にも配慮しながら、家族を守り、少しずつ環境を変える方法を一緒に考えていく、という。緊急避難として家族が家を出て暮らすのも手だったそうだ。

 若者の問題と思われがちだが、全国親の会の会員調査によると、引きこもりは長期化し、平均年齢が30歳を超えている。親も退職年齢にさしかかっており、今後、精神面のケアとともに経済的な支援、さらには仕事のあっせんも考えなければいけない。

 DV(配偶者、恋人などからの暴力)や児童虐待と同様、問題を抱えた多くの家族、当事者は孤立している。手をさしのべる側は関係者や組織がしっかりとしたつながりを築き、かすかなSOSも見逃さないようにしたい。


5/7 朝日

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NPO税制―誰もが支えられる工夫を(5/6 朝日)

鳩山由紀夫首相が力を入れる「新しい公共」作りに向け、特定非営利活動法人(NPO法人)の税制見直しが決まった。NPOを力強く発展させ、市民社会を充実させるテコとなるよう、中身を工夫したい。

 見直しの柱は、個人の寄付を増やすための優遇措置の拡充や、対象となるNPO法人の認定基準の緩和だ。年末の税制改革大綱に盛り込むため、これから具体的内容を詰める。

 寄付の優遇は従来、寄付額を課税対象となる所得から差し引く所得控除だけで、高所得層にしか恩恵が及ばないと批判されてきた。

 今後は新たに寄付額の一部を納税額から差し引く税額控除も選べるようにする。首相は、寄付額の半分を控除し、控除額の上限を所得の4分の1とする考えを示した。政党や政治団体への寄付が30%税額控除なので、それより優遇するとの判断だ。

 市民の活動を納税者が直接支える流れを太くする意味でも、この措置を歓迎したい。ただ、サラリーマンには控除を受けるのに確定申告が必要なことも壁になっている。年末調整で済むようにするべきだ。

 優遇策はすべてのNPO法人が受けられるわけではない。国税庁が一定の基準で「公益性」を認めた認定NPO法人だけが享受できる。だが、全国でNPO法人が約4万あるのに認定NPO法人は127しかない。そこで今回、認定要件の緩和も打ち出された。

 これまでの基準は事業などの収入総額のうち、3分の1以上を寄付が占めるよう求めている。だが、事業収入が多いと基準が達成しにくくなるジレンマがあったり、費目の分類が複雑で実際には税理士の支援が必要だったり、と問題が多い。

 今回、「一定額以上の個人寄付が一定の数だけあればいい」との基準も作り、併用する方向になった。

 だが、甘くし過ぎると脱税の隠れみのに悪用される懸念もある。制度づくりで注意すべき点だ。

 大事なのは、一般の人々から見て「寄付に値する信用の置けるNPO法人」を増やすことだ。その点で、NPO法人側にも反省すべき点は多い。

 活動の実態や財務内容、人事の理由などを対外的にきちんと説明しない例も少なくない。

 日本で寄付をしている人の数は米国に比べ見劣りはしないが、金額が小さい。NPO法人の中身が不透明なので、思い切った応援を決めかねている面もあるようだ。

 NPO法人を支える制度作りは政府だけの仕事ではない。NPO法人有志により統一の会計基準や経営原則のチェックリストを作る動きが進んでいる。NPO法人の自立と質の向上を促すために力を合わせてほしい。

5/6 朝日

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地球温暖化 科学的な根拠の検証が急務だ(5月4日付・読売社説)

 地球温暖化の科学的な信頼性が揺らぐ中、日本の科学者を代表する日本学術会議が初めて、この問題を公開の場で論議する会合を開いた。

 だが、会合では、専門家がそれぞれ自説を述べるだけで学術会議の見解は示されなかった。このまま終わらせてはならない。

 取り上げられたのは、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が過去4回にわたってまとめてきた温暖化問題に関する科学報告書だ。次々に、根拠の怪しい記述が見つかっている。

 報告書の作成には、日本人研究者も多数関与している。

 しかも、この報告書は、日本をはじめ各国の温暖化対策の論拠にもなっている。学術会議自身、これをもとに、早急な温暖化対策を求める提言をしてきた。

 どうして、根拠なき記述が盛り込まれたのか。国連も、国際的な科学者団体であるインターアカデミーカウンシル(IAC)に、IPCCの報告書作成の問題点を検証するよう依頼している。

 国際的に多くの疑問が指摘されている以上、科学者集団として日本学術会議は、問題点を洗い直す検証作業が急務だろう。

 IPCCは3~4年後に新たな報告書をまとめる予定だ。学術会議は、報告書の信頼性を向上させるためにも、検証結果を積極的に提言していくべきだ。

 現在の報告書に対し出ている疑問の多くは、温暖化による影響の評価に関する記述だ。

 「ヒマラヤの氷河が2035年に消失する」「アフリカの穀物収穫が2020年に半減する」といった危機感をあおる内容で、対策の緊急性を訴えるため、各所で引用され、紹介されてきた。

 しかし、環境団体の文書を参考にするなど、IPCCが報告書作成の際の基準としていた、科学的な審査を経た論文に基づくものではなかった。

 欧米では問題が表面化して温暖化の科学予測に不信が広がり、対策を巡る議論も停滞している。

 日本も、鳩山政権が温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減する目標を掲げているが、ただでさえ厳しすぎると言われている。不満が一層広がりはしないか。

 欧米では、危機感を煽るのではなく、率直に論議する動きが出ている。この10年、温室効果ガスは増える一方なのに気温は上がっていない矛盾を、温暖化問題で主導的な英国の研究者が公的に認めたのはその例だ。参考にしたい。

(2010年5月4日01時18分 読売新聞)

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高速割引見直し値上げで建設費に回す無節操(4月10日付・読売社説)

2010年4月16日金曜日

高速道路建設費の確保に窮して、料金を実質的に値上げし転用する―。鳩山内閣がまとめた高速料金割引制度の見直し策を一言でいえば、こうなるだろう。

 6月実施の新制度では、利用者の多くが負担増となりそうだ。経済効果が高く、事故防止にも役立つ路線の新設・拡幅は妥当だが、高速道整備に否定的だった鳩山内閣の姿勢と明らかに矛盾する。

 いまだ旗を降ろさぬ高速道路の無料化政策にも反しよう。新制度に対する国民の理解を得るのは、容易ではあるまい。

 新しい割引制度は、自公政権時代に導入された中身を、大幅に整理・統合するものだ。

 目玉だった、自動料金収受システム(ETC)を装備した車を対象にした土日・祝日限定の「1000円走り放題」は廃止する。早朝、深夜など時間帯ごとの割引も、今年度限りでやめる。

 その代わり、軽自動車は1000円、普通車は2000円、中型車以上は5000円などの上限を決め、それ以上の料金は取らないことにする。燃費のいい車を優遇する仕組みもある。

 土日ばかりでなく平日にも適用し、ETCの有無を問わない。このため、ETCを付けていない車や平日に遠出する場合、恩恵は確かに大きいだろう。

 だが、新制度には盲点がある。普通車などの平均走行距離は土日で約60キロ、平日なら約40キロだ。この程度走ったくらいでは料金が上限に達せず、支払うべき料金は現行より高くなるという。

 首都高速と阪神高速については年末をめどに、都府県ごとの区分と一律料金制をやめ、500円から900円を走行距離に応じて支払うシステムに変える。

 短距離の場合は割安になるが、長く走ると、負担増・減の二つのケースが出てくる。ドライバーも戸惑うのではないか。

 今回、料金割引制度を見直すのは、高速道路建設の財源確保のためである。

 料金割引の原資に国が手当てして残る2・5兆円から、今回の制度変更で使わずに済むようになる1・4兆円を、建設費に充てる計画だ。

 鳩山内閣が昨年末、民主党に高速道路の整備促進を強く要請されたことで、原資に目をつけた。

 建設費がどうしても必要というなら、きちんと予算化するのが筋だろう。一貫した高速道路政策が鳩山内閣にないから、こんな姑息(こそく)な手段を選ぶことになる。
(2010年4月10日02時18分 読売新聞)


・・なぜETCという優れたハイテクインフラを捨てるのか

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朝日社説 郵政決着―擦り切れる「首相の資質」(4/1)

2010年4月2日金曜日

見当違いのリーダーシップだと言わざるを得ない。鳩山由紀夫首相が主導した郵政改革案の決着のことである。

 閣内や与党内にも異論があったが、亀井静香郵政改革相らの案に沿って進めることを決めた。ゆうちょ銀行への預け入れ限度額を2千万円に倍増、かんぽ生命保険の保障限度額を2500万円にほぼ倍増するという内容だ。

 手っ取り早く規模を拡大して収益を増やそうという安直な路線である。

 弊害ははっきりしている。郵貯は資金の大半を国債で運用している。資金が民間金融機関から郵貯に移れば、企業の設備投資などに回る資金が減り、経済の活力がそがれる。「中小企業をいじめるような法案」(山口那津男公明党代表)と言われても仕方がない。

 民主党はもともとは郵貯の規模縮小や簡保の廃止を掲げていた。首相はなぜ逆方向の改革案をのんだのか。

 亀井氏らを抑え込もうとすると、連立政権の危機につながりかねない。かといって、「学級崩壊」の様相すら呈する閣内の対立を放置すれば、イメージダウン は深刻になる。その一方、特定郵便局や労組などの郵政ファミリーを引きつければ参院選には有利だ。そんな事情があったのだろう。

 政策判断より政局判断を優先した、後ろ向きの「裁定」というほかない。

 鳩山氏のリーダーシップの迷走は、谷垣禎一自民党総裁が言う通り、もはや「首相としての資質」が疑われるところまで来ているのではないか。

 きのうの党首討論で谷垣氏は、いろいろな問題を引き起こし、混乱を生んでいる真の原因は、「首相の言葉」そのものにあるのではないかと述べた。的を射た指摘である。

 好例が米軍普天間飛行場の移設問題だ。首相は3月中に政府案をまとめることを「お約束する」と述べてきた。だが、3月末が近づくと「法的に決まっ ているわけじゃありません」などと言い訳し、「1日、2日ずれることが大きな話ではない」と言い放つに至った。「綸言(りんげん)汗の如(ごと)し」とい う言葉をご存じないのだろうか。

 これでは、5月末までに「命がけで」決着させると聞かされても、有権者は鼻白むしかない。

 この問題では、首相は「腹案」なるものがすでにあることを明かし、「考え方は一つだ」と語った。しかし、岡田克也外相は現時点で一案に絞るのは「ありえない」と述べたばかりだ。二人は口をきかない間柄なのか。

 改めて指摘するのは残念だが、首相はともかく言葉をもっと大事にするべきである。自分の発言がどういう政治的意味を持つか、無頓着すぎる。

 最高指導者として政策の方向性を定め、責任ある言葉で政権内を調整し、引っぱっていく。そんな首相の資質への期待が擦り切れかかっている。


http://www.asahi.com/paper/editorial20100401.html?ref=any

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日経社説 郵貯拡大を追認した首相の責任は重い 2010/4/1付

 自らの指導力不足で広がった閣内の混乱を「自分のリーダーシップ」で鎮めたと言い張る。そんな鳩山由紀夫首相の言葉が空々しく響く。

 政府は30日の閣僚懇談会で、閣内で不一致が起きた郵政事業の見直し案を協議した。首相は亀井静香郵政・金融担当相と原口一博総務相で合意した原案通りに進めるよう指示し、混乱を決着させた。

 郵便貯金や簡易保険の限度額をいまの2倍程度に上げる見直し案に、仙谷由人国家戦略相は金融をゆがめると反発した。菅直人副総理・財務相も日本郵政グループ内の取引で消費税を免除する構想を批判した。

 だが、郵便局を支持母体とする国民新党を率いる亀井氏は、意見調整は政策会議で尽くしたと突き放し、大枠を譲る構えを見せなかった。

 首相自身もふらふらした。亀井、原口両氏の案に一度は「了承したということではない」と語ったものの、最後は亀井氏らの決定を擁護して、おひざ元の民主党内の反発を封じた。指導力の欠如は明らかである。

 首相が決着を急いだ背景は2つ考えられる。まず、閣内の混乱が長引けば、首相の指導力不足が一段とはっきりしかねない。第二に夏の参院選で郵政票を握る国民新党との選挙協力が欠かせないとの思惑である。

 民主党は2005年の衆院選で郵貯限度額の引き下げを公約した。仙谷氏のように当時との矛盾を指摘する声が出るのは当然だ。郵貯などの拡大で「民から官」への転換を認めるかどうかで議論を尽くすべきだが、自らの体面を首相は優先した。

 政府は今回の合意を「郵政改革法案」として国会に提出する。郵便事業や郵便局会社を統合する親会社の日本郵政では政府が3分の1超の株式を持ち続け、ゆうちょ銀行やかんぽ生命保険には親会社が3分の1超の出資を続ける。

 国の経営関与を残して郵貯や簡保の拡大を認めれば「暗黙の政府保証」をあてにして、民間の中小金融機関から資金シフトが起きかねない。郵貯残高が増えれば国債の引き受けに回り、財政規律の緩みにもつながる。資金の「出口」となる政府系金融の肥大化も懸念される。

 非効率な官製金融の再拡大を追認した首相の責任は重い。郵貯などに資金集中が起きれば限度額を変えるというが、朝令暮改の対応は預金者を混乱させる。現実性は乏しい。

 政府持ち株売却の段取りや、見直し後の郵政事業の預金や収益の見通しについて、亀井氏らは説明を避けている。疑問に答えず、強引に立法化を進めることは許されない。


http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE2E7E2E2E0EBE1E2E2E3E2E6E0E2E3E28297EAE2E2E3?n_cid=DSANY001

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日経社説 民主に郵政逆走を止める気はあるか(3/30)

2010年3月30日火曜日

 鳩山民主党政権は「官から民」を進めるのか、それとも「民から官」への逆走を黙認するのか。郵政事業の今後を巡る深刻な閣内対立をどう解くかで、方向がはっきりする。

 発端は国民新党代表の亀井静香郵政担当相と民主の原口一博総務相が合意した郵政見直し案である。

 亀井氏は24日、原口氏同席の記者会見で、郵便貯金の預入限度額をいまの2倍の2000万円に上げるなどの案を発表した。「鳩山由紀夫首相も了解ずみ」と念を押した。

 亀井氏はこのほか、日本郵政のグループ内取引で消費税を免除する意向も示した。

 これに仙谷由人国家戦略相や菅直人副総理・財務相ら民主党の閣僚が一斉に反発した。亀井、菅の両氏は郵貯限度額を巡り「連絡した」「聞いていない」とテレビ番組でも水掛け論になった。内閣としてのまとまりを欠き、醜態をさらした。

 30日の閣僚懇談会で打開策を探るが、露呈した与党内の基本的な路線対立が簡単に収まる兆しはない。

 亀井氏は小泉政権の郵政民営化を全否定し、全国郵便局長会を支持母体とする国民新党を率いる。郵貯や簡易保険の規模拡大で、全国一律の郵便・金融サービスの原資をまかなう考え方だ。民間金融機関の活力を奪い、非効率な官製金融を温存させるおそれがある。

 民主党は2005年の衆院選で郵貯限度額を段階的に500万円に下げる縮小論を主張した。今回の案は正反対だ。仙谷氏は郵貯拡大でもほとんどが国債に回り、それが経済にゆがみをもたらすと指摘した。

 まっとうな主張だが、いまになるまでなぜ口を閉ざしていたのか。

 政府内の混乱が増幅したのは、郵政事業の将来像について定見を示さない首相の指導力不足が大きい。米軍普天間基地の移設先をめぐる迷走と同じ構図だ。政権としての意志がみえず、意見調整も十分に機能していない。

 鳩山政権は連立を組む社民党や国民新党の主張にも耳を傾けざるをえない立場にある。だが、政府の関与が続く郵貯を膨らませ「脱官僚依存」を後退させれば、有権者の失望を買うだけだ。

 首相や閣僚は日本の金融システムの中で郵政をどう位置付けるか、もう一度原点に立ち返って議論すべきだ。特に民主党には改革の「逆走」とも言うべき流れを本当に止める気があるかどうかが問われる。

 限度額の引き上げ幅を縮めたり、結論を先送りしたりして当座をしのいでも、何の解決にもならない。


日本経済新聞全文引用
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A9693819699E0EBE2E2E68DE0EBE2E1E0E2E3E28297EAE2E2E3?n_cid=DSANY001

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郵政法案迷走 またも露呈した指導力のなさ(3月27日付・読売社説)

2010年3月28日日曜日

 郵政改革法案の策定作業が、土壇場で迷走している。亀井郵政改革相と原口総務相が発表した最終案に閣内で異論が噴き出したためだ。

 首相は、内閣を二分しかねない事態を深刻に受け止め、自ら収拾にあたるべきだ。

 仙谷国家戦略相は、最終案に盛り込まれた、ゆうちょ銀行の預入限度額の1000万円から2000万円への引き上げは、国債運用に回る資金を増やすだけで、民間への融資や投資の拡大につながらないと批判した。的確な指摘といえよう。

 菅財務相は、亀井氏が日本郵政グループ間の取引に消費税を課さないようにするとしていることに関し、「聞いていない」と述べた。郵政だけに特例措置を認めるのは筋が通らない、という判断からであろう。

 これに対し、亀井氏は、最終案の発表前に首相の了解を得ていると反発した。今度は首相が「了解していない」と発言して混乱に拍車をかけ、双方が水掛け論を演じる醜態ぶりだ。

 郵政改革の骨格部分について、首相と担当閣僚や、閣僚同士の対立が露呈する。これでは、野党から内閣の体をなしていないとの批判が出るのも当然だ。

 首相は一体、郵政改革法案づくりの進捗(しんちょく)状況を、どこまで把握していたのか。結局、改革の主要部分まで、亀井氏らに丸投げしてきたことのツケがまわってきたということだろう。

 首相の指導力不足が、混乱の主因といえる。

 民主党が野党時代の2005年に示した改革案は、郵貯の限度額について、引き上げどころか、500万円に下げる内容だった。

 当時幹事長だった鳩山首相は、小泉内閣の法案を、「官業の民業圧迫」と批判し、民主党案の方が優れていると主張していた。民主党本来の政策を転換するなら、十分な説明が必要になろう。

 26日の閣僚懇談会で、首相は、全閣僚による懇談会を開いて調整するよう指示した。

 しかし、亀井氏は、ゆうちょ銀行の預入限度額は変更しない考えを示している。原口氏も「手続きに瑕疵(かし)はない」と言う。

 首相は26日の記者会見で、「閣議で決まる前に、いろいろな声が閣僚の中にあるのは、むしろ健全だ」と述べた。閣内不統一を呈している現状への危機感がまったく感じられない発言だ。

 こんなことで、内閣を束ねていけるのだろうか。

2010年3月27日02時28分 読売新聞)

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日経社説 エコカーへの期待高める日欧3社提携(3/26)

 日産自動車が独ダイムラーと相互出資交渉を進めていることを明らかにした。日産の筆頭株主でもある仏ルノーも加わり、3社連合で環境技術の開発を強化するという。

 自動車メーカーにとって、二酸化炭素(CO2)の排出の少ない環境対応車の開発は最大の社会的責任であるばかりでなく、売れ筋でもある。新たな提携によって、環境技術の開発・実用化に弾みがつくことを期待したい。

 一昨年のリーマン・ショック以降、自動車産業は数々の激震に見舞われた。世界最大のメーカーだった米ゼネラル・モーターズ(GM)は法的整理の道をたどり、世界最強とされたトヨタ自動車も大量リコール問題でつまずいた。

 世界市場の重心も西から東に移動し、米欧市場が足踏みする一方で、中国やインドなどアジアの新市場が急速に成長している。技術面では100年続いたガソリンエンジン一辺倒の時代が終わり、ハイブリッド車や電気自動車など環境対応車をめぐる競争が幕開けした。

 個々のメーカーにとって急激な環境変化への対応は待ったなしだ。昨年末にはスズキと独フォルクスワーゲンが提携し、両社あわせればトヨタを上回る巨大連合が誕生した。

 日産・ルノーとダイムラーの提携交渉も、背景にあるのは規模拡大やライバルとの協力によって激震を乗り切ろうという経営トップの意志だ。日産のカルロス・ゴーン社長はここ数年、GMや米クライスラーとの提携に意欲を燃やしたが、実を結ばなかった。

  次の提携相手として、ダイムラーに注目したのは、もともと研究開発の地力があるうえに、ディーゼルエンジンとモーターを組み合わせたディーゼルハイブリッ ドなどに優れるからだろう。日産・ルノーに一日の長がある電気自動車と組み合わせれば、次世代エコカー技術の厚みが増すことになる。

 積極的に提携戦略を仕掛ける日産に比べると、トヨタとホンダの2社は「自前主義」を掲げ、他社との提携にはさほど関心を示してない。

 1990年代末に加速した前回の自動車再編ブームではダイムラー・クライスラーなどの大型合併は失敗したのに対し、派手な再編に背を向けて、自社の実力向上に専念したトヨタやホンダが飛躍した。

 提携や再編はそれ自体が目的ではない。日産再生で一時はカリスマ経営者ともてはやされたゴーン社長が提携を実現に導き、その成果をどう生み出すかに注目したい。

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ニュース記事ログ3/14

2010年3月14日日曜日

大学生の「就業力」アップ、国が5年計画

大学生の就職内定率が就職氷河期以来の落ち込みを記録する中、文部科学省は、2014年度までの5年を大学生・大学院生の「就業力」向上の重点期間と位置づけ、大学の財政支援などに乗り出す。

 10年度予算案で、既存の補助金などと別枠で30億円を確保、公募により、インターンシップ(就業体験)を卒業単位に 認定するなど積極的な指導を行う国公私立大130校に資金配分する。また、私大約500校に来年度まで就職相談員を配置、大学生らの就業危機脱出を支援す る。

 公募で選ばれた大学には、国立大への交付金や私学助成とは別枠で1校につき約2300万円ずつ配分する。選考基準は今後定めるが、1年生から将来 の進路を考える科目が必修化されている金沢工業大(石川県)や、調査能力、国際感覚など社会人に必要な能力育成を意識した講義を行う東京女学館大(東京 都)、就業体験を単位に認定している一橋大(同)などの例を念頭に置いている。

 財政支援を行うことでこうした取り組みが他大学に波及する効果も期待している。大学院生や、就職が決まらない既卒者の支援も産業界などと連携して進める。

 一方、就職相談員の配置は、企業で採用や人事を担当した経験者や民間の就職支援関連資格保有者の雇用費用を国が負担するもので、国公立大と一部私大を除く495校を対象に来年度まで支援する。

 同省などが12日に発表した2月1日現在の大学生の就職内定率は80%(前年同期比6・3ポイント減)で、調査を始めた00年以降で過去最低。新 卒で就職する学生の3割が3年以内に離職しているというデータもある。各大学は独自に指導を行っているが、個々の学生の個性や職業観を踏まえた職業教育を 行う大学がある一方、「面接対策など小手先の指導にとどまる大学も多い」(文科省)という。

2010年3月14日03時08分 読売新聞)

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ニュースログ3/11

2010年3月12日金曜日

ホンダ「CR―Z」、発売2週間で7000台受注

 ホンダが2月26日に発売した新型ハイブリッド車「CR―Z」の受注台数が、発売から2週間で7000台強に達した。年間販売計画は1万2000台で、 すでに年間計画の約6割の受注を獲得、異例のハイペースの受注となっている。燃費の良いハイブリッド専用車で、ホンダが久々に発売したスポーツカーという 話題性も重なり、支持を集めているようだ。

 予約者は、「30代以上の独身者」が35%、「40代以上の子離れ層」が35%、「20代独身者」が15%を占めており、大半は男性という。(08:31)日経


トヨタ、早期退職750人を英工場で募集

 【ロンドン=石井一乗】トヨタ自動車の欧州法人(ベルギー)は11日までに、英国工場で750人程度の早期退職者を募集することを決めた。同工場の人員 の約2割に当たる。これに伴い、昨年4月に導入したワークシェアリングは中止する。同工場ではこれまで雇用を維持しながら市場の縮小に対応してきたが、 いっそうの合理化に踏み切る。

 同工場のワークシェアリングは実質的に1割の人件費カットに相当する。ただ今年後半をメドに早期退職者の募集を始めることで、ワークシェアリングの必要性が薄れた。同工場では併せて、今年の賃上げも凍結する。(01:38)日経


日立、11年春採用は850人 前年から据え置き

 日立製作所は12日、2011年春入社の新卒採用を850人と前年から据え置くと発表した。大学・高専卒が700人、高校卒が150人。経験者採用は50人で、理系と文系の比率は公表していない。

 新興国を中心に社会インフラ事業などで海外市場を開拓するため、海外大学の在籍者や国内大学の留学生を積極的に採用するという。国内連結子会社の採用も4200人と前年から据え置く。(16:36)日経



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朝日社説 98の空港―無責任のツケを誰が払う

またひとつ、前途が心配な空港が誕生した。全国で98番目となった茨城空港。経営を黒字にできる確かな見通しもないままつくられたのは、なぜなのか。よく考えてみたい。

 空港経営を黒字にできなければ、その負担を負うのは国民である。

 地元には、羽田空港や成田空港に続く「首都圏第3空港」として期待する声もある。だが、茨城空港の定期就航はソウル便と神戸便のわずか2路線しか決まっていない。

 成田や羽田に近すぎて、航空各社が就航を見合わせた。年間の利用客数は、着工前の予測の5分の1ほどしか見込めない状況にある。空港運営で大きな赤字が避けられないほか、県の公社が営むターミナルビルでも赤字は年間2千万円ほどになりそうだ。

 需要が期待はずれとなった空港は珍しくない。海外も含めたビジネスや観光などで、利用客がこれから増えるに違いない。そんな捕らぬタヌキの皮算用があちこちで幅をきかせ、地元の期待をあおった。しかし、開港後は厳しい現実に直面する。日本中、そんな空港であふれている。

 国土交通省がまとめた全国の空港の国内線の状況によれば、比較可能な69空港のうち、実績が需要予測を上回ったのはわずか8空港だった。

 不況も一因ではあろう。しかし、建設反対論を押し切ろうと、もともと甘い需要見通しをつくったのではなかったか。そんな疑いもぬぐえない。

 需要予測は、人口や国内総生産の将来予想、観光需要などをもとに作られる。本来は客観的なものとなるはずだが、その調査の多くは国土交通省出身者が幹部を務める財団法人などに委託されている。

 全国の空港で駐車場や保安業務の多くを請け負っているのは国交省航空局が所管する27の公益法人だ。うち20法人に官僚700人以上が天下っている。空港利権に期待する関連業界や自治体、政治家。官僚もそのなれ合い構造にくみした結果が、無責任な空港建設につながったのではないか。

 98空港の多くは赤字経営だ。その運営維持に巨額の税金がつぎ込まれ続ける事実も忘れてはならない。昨年1月に日本航空が撤退して経営が苦しい福島空港では、空港運営の赤字を税金で年間3億~4億円穴埋めしている。

 アジアなどからの客を呼び込むなど、各空港が経営の改善に向けて努力することが望まれる。だが赤字垂れ流しをいつまでも続けることはできない。見通しが困難な空港は、思い切って統廃合を進めるしかない。

 ハブ化する羽田との連絡など航空網の未来図はもちろん、新幹線と高速道路も含む総合的な基幹交通ネットワークを描きながら、空港ごとの採算性を厳しく問いたい。


asahi.com 全文引用

http://www.asahi.com/paper/editorial20100312.html?ref=any#Edit2

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